真弓の選択
「……これ」
鞄から紙切れを引っ張り出し、彼に突き出した。
折り目に従い綺麗に折り畳まれたそれを開いて眺め下ろした彼は、何故か不満そうに片眉を跳ね上げる。
「おおっ、完璧や。これでこいつを組織の受付へ持って行って判を押して貰うたらめでたく、新・チーム槐結成やな」
昨日見た物と、若干色と形は違うものの、大して変わらないパーカーのフードから顔を出した棗が、ぴょいっと主の頭の上へ飛び乗り、その書面を一緒に覗き込んだ。
「……おい、棗。話が違わないか?」
「大して違わんやろ。相変わらず主ってば、女の子の機微に疎いんやなぁ、ホンマに。せやからモテるくせに未だ彼女の一人も居らんのや」
「うるさい、余計な世話だといつも言ってるだろう。……しかし、いいのか本当に?」
己の目と耳を疑うように、目を細め、耳に手を当て、不機嫌そうに顔をしかめる彼に、真弓は最新の情報を、昨日の彼のように淡々と口にした。
「……今日、学校でまた行方不明事件が起きたの。2度あることは3度ある、って言うけど、これだけ続けば6件目、7件目も間違いなく起きる」
現状、無差別に起きる事件に、真弓が巻き込まれない保証はどこにも無い。
「……でも、あなたは、事件の犯人を捕まえに来たんでしょう? だったら、あなたに協力するのが、当たり前の日常を取り戻す一番の近道だと思ったから」
覚悟を決め、これまでずっと伏せていた目で彼を見上げ、その目をまっすぐ見据えて真弓は言った。
「――ならば、契約を交わす証として、お前にこれを渡そう」
彼は失礼にも頭痛を堪えるようにこめかみを押さえて首を振り、ため息をついて目を閉じた。
そして、パーカーのポケットに手を入れ、その片手に易々収まるサイズの小瓶を取り出し、真弓に差し出した。
「これは……飴玉?」
それは、まるでお洒落な香水瓶の様な――。
まるっとした可愛らしいガラスの小瓶。口のところのくびれにピンクのリボンが結ばれ、口にはコルク栓が嵌っている。
中身は、駄菓子のガムボール大の飴玉。
濃淡の差はあれど、全てが赤系統の色で統一されている。
「お前に依頼する仕事は、人外の存在が起こしている事件の調査だ。身の安全に関しては万全を期すつもりでいるが、それでも足りない部分が出てくるかもしれない」
これだけ暑い中でも全く溶ける様子もなく、瓶を揺するとカラン、と涼しげな音を立てて飴玉が転がる。
「これは、その足りない部分を補うための物だ」
「百聞は一見に如かず、って言うやろ? 1個、試しに舐めてみたらええ」
だが、その棗の提案に、彼は渋い顔をした。
「……これを口にすれば、その瞬間から約2時間、お前の能力を底上げする効果がある。――が、同時に相応の副作用を伴う」
「……副作用?」
「――百聞は一見に如かず、ってのも確かだが、僅かでも危険を伴う以上、安易に試せなどと言うべきではないと俺は思う」




