1.商業都市ジゼリナ
「……ここか。」
大量の荷物を積んだ荷馬車が数えきれないほど行き来する大門を見上げて、ユセムは呟いた。
行き交う人々は皆、自分の事に精一杯で周りの人の事など気にも止めてない。
ユセムがいきなり立ち止まっても、そこを避けてまた新たな流れが出来た。
商業の街、ジゼリナ。
ロセレア地方の商業の中心都市。
低めの城壁に囲まれた都市内部には数多くの店が軒を連ね、国内有数の商会のロセレア支部もここにある。
世界や国の中心都市に比べればやはり劣るが、それでもなお地方の一都市にしては立派である。
これほどの都市の始まりは、たった一人の商人だったというのだから驚きだ。
しばらくその目に鮮やかな景色を眺めた後、行き交う人の波に交ざるためにユセムは一歩踏み出した。
「新鮮な果物はいらんかね!」
「うちのアクセサリーは全部一点ものだよ!女の子へのプレゼントに最適!…おい、お前さん!ちょっと見ていかないか!」
「いえ、急いでいるので。」
色とりどりの商品に目を奪われながら歩いていると、すぐに露店の店主に声をかけられる。
生憎だが買うつもりはない。急いでいるなんてもちろん嘘だ。
街の中はまず、喧騒がすごい。
我が店の商品を売り込もうと声を張り上げる店主。
何かトラブルがあったのか、言い合いをする大人達。
そんな人々の隙間を走り抜ける子供達。
鮮やかなもの達がわさわさと視界いっぱいに入り込んで、下手したら酔いそうだ。
ユセムはすれ違う人々の隙間に上手く滑り込みながら前へ進む。
途中で通りの両側に並ぶ建物に目をやって、この街にいる間の拠点となる宿を探した。
商売のためにジゼリナにやってくる商人などを狙った宿屋があるはずなのだが、今のところ見つからない。別の区画にあるのだろうか。
とりあえず、この街の構造を把握するためにも、一通り街を見てみる事にした。
一時間ほど見て回ったところで、ひっそりと奥まった通りに宿屋が並んでいるのを発見する。
ジゼリナに入った大門からはほぼ反対側だ。
案内板くらい出してほしい。
宿屋のある通りは人通りが少なく、かなりの静かさだ。おそらく、この辺りは出店禁止地区なのだろう。
時たま宿屋の関係者らしき人が通り過ぎたり、宿を探しに来た人が歩いている程度で、他の宿泊客などは皆商業区域に行ったようだ。
とりあえず宿をとる事にして、7、8件並ぶうちのどれにするか考える。
宿の説明書きを見て回り、朝食付き、夕食は宿内の食堂を割引、値段も手頃な一件に決めた。
ユセムが宿の扉を引くと、カラン、と軽やかにベルの鳴る音が響いた。
ちょっと短いでしょうか(-。-;