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港区の酒場  作者: ranpe
喫茶店.
19/20

【喫茶店.】震える楽員

「いらっしゃいませ」「にゃー」(いらっしゃい)

「マスター、何か軽いものを」

「畏まりました」


楽員に勧められた酒場に入り浸りになるのはすぐであった。

最初にここに連れられたときはお昼時であったため最初はここが酒場だなんて知らなかった。

あの日以来俺はこの酒場に入り浸れている。

朝起きてから朝食を食べ調律し終わった後昼飯を食べに毎日通っている。

いつ俺が行っても3人以上の客がいたことはない。たまになぜ潰れないのかと考えることがあるがそれ以上はいつも考えない。

俺は来るたび来るたびマスターに問いかける。

今日の天気。市場の様子。湿気の具合。何を聞いても戸惑うことなく何の疑問もないように答えてくれるこのマスターは何者なのだろうか。

マスターとのやり取りが楽しみになってきた頃のことを話そう。


注文の品が俺の目の前にやってきたときにその時は来たのだが。


「マスター少しいいか?」

「ええ、構いませんよ」

「こんだけ毎日通ってて今更かもしれんが俺は楽員なんだ」


マスターはいつもと変わらぬ笑みを顔に付けて俺の話に付き合ってくれる。


「左様なのですか。時々楽員の音を楽しませてもらっていますよ」

「話を少し変えるがマスターは勉強という言葉にどういう意味を持っていると思う」


俺は手を組みマスターに問いかける。


「勉強でございますか…。私も日々生きていくのが勉強ですよ。この年になっても学ぶべきことはたくさんあります。」


悩む様子もなくすぐに返してくれるマスターに関心する反面言葉を噛みしめる。


「人は短い生の中で爆発的に生命力を使います。年数に応じた成長というものが他の生物とは比べ物にならないくらいあるのです。人間生きて60年。毎日が勉強ですよ」


マスターの言葉というのはひどく難しい。学がない自分に恥じることもしばしばある。ただそれ以上に何か揺さぶられる物がある。

俺はこの感覚がいつも楽しみだ。

マスターの何気ない言葉で俺の感性が震えるこれが素晴らしい。

だから俺はいつもこう返す。


「マスターは何者なんだ」と。

そしてマスターはいつもこう返す。

「ただのマスターですよ」と。

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