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探求者とエセエルフ(弟)








 精霊の都シャラ・エル・ラドールは立憲君主制を取っており、政治を担うのは投票によって選ばれた議会の面々である。

 数十年前に先王ドーラント自らが改革を推し進め、その死後王位を引き継いだ王妃がそれを終えたのだ。


 その王妃とは、レレイシア・エンゼ・エル・ラドール。

 ――今はレレイ・エン・ガルファと名を変えて貸本屋をしている、かの老婆である。



「改めて――俺はラドウィル・セラーデ・エル・ラドール。こっちは、兄のアルティノ・フィマ・エル・ラドール」

「……はあ」

「長くて覚えにくいだろうけど、俺のことは前言った通りラディでいいし、兄の事はアリーで良いよ。俺は魔法技師、兄さんは軍人。下にもう1人弟がいて、そっちが国王」

「国王!?」

「……まさかとは思うけど、まだ気づいてないんすか?」


 呆れたような顔で、サカサマの目を見る。

 ――本気で分かっていない顔だと気づき、呆れを通り越して溜息が出た。


「この方々は、王族っす。しかも王兄」

「オーケー?」

「……王の兄」

「お、おう」


 こくこくと頷いたサカサマを見て、ラドウィルが話を再開する。


「王族って言っても、もうそんなに力はないんだけどね。政治は議会が回してるし」

「なるほど」

「俺たちは儀礼関係の仕事があるだけで、あとはこの城にある国宝とか機密書類を守るだけの簡単なお仕事ってことー」

「そうっすか。――どうでもいい豆知識をどうも。で、何が目的っすか」


 椅子に寄りかかって足を組んでいる三河は、本物の王族よりよほど偉そうに見える。


「助けてほしいんだ」


 ラドウィルは持っていたカップを置き、柔らかく微笑んだまま言った。

 暫く沈黙が流れる。よく分かっていないサカサマも、雰囲気に押されて黙り込んだ。


「何から、何を?」


 じっとラドウィルの目を見ていた三河は、それだけ言った。


「――黒妖精どもから、この都市を、だ」


 そして答えたのは、ラドウィルではなかった。そして、アルティノはまだ延びている。

 ――第三者は、2人によく似た青年だった。


「そこの馬鹿は、また客人に襲いかかったのか?」

「うん。でも、見ての通りでねー」

「――いや、いい薬になるだろう。兄が申し訳ない」


 ラドウィルとアルティノとは違い、まだ幼さの残る容姿。

 2人と同じ金色の長髪を首筋あたりで結い、金属で出来た輪のようなものを頭に乗せている。冠と言うにはシンプルだが、中央の小粒の宝石はきらきらと輝いている。

 和服に似たエルフの民族衣装の上に豪奢な刺繍の施された上着を羽織った姿は――


 ……王というよりは王子に見える。


「私がシャラ・エル・ラドールの王、マズディルだ。マズと呼べ」

「……まともかと思ったら、国王本人もそう来るんすか」

「税金で養われる身だからな。市民とは友であるべきだ。友とはあだ名で呼び合うものだろう」

「友達に養って貰うのも情けなくね?」


 漸く元の調子に戻ったサカサマがそう言って笑うと、ぴしりとマズディルの表情が固まった。


「……なるほど、そういう考えは……出て来なかったな」

「それはそうとして、黒妖精ってダークエルフの事っすか?」


 そして落ち込んだような顔でぶつぶつと言い始めたが、三河は完全に無視して話を進めた。


「……昔はエルフだけだったが、近ごろは他の妖精種も“黒堕ち”を起こす。やはり、この世界が荒れた所為だろうな……」

「黒堕ち?」

「悪に染まった妖精種の体色が変化する事だ。――肌が黒くなる。場合によっては、目は赤に、髪は白に変わるな。どういう法則なのかは分からないが」

「「……」」


 サカサマと三河は同時に同じ人物を思い浮かべたが、すぐに首を振って否定した。

 ――いくらなんでも、悪に染まったと判定される程ではないだろう、と。


「で、その黒妖精が、何をするんすか」

「どうも、近々大規模な襲撃を行うらしいのだ。今までは寄り集まる事のなかった黒妖精たちが、南西にある森で何やら企んでおってな……どうも、強力な統率者が居るらしい」


 強力な統率者。

 ――その言葉に、サカサマと三河は一瞬だけ視線を交わした。


「その統率者については、何か分かっていますか」

「……それが、黒堕ちもしていないハイエルフだそうだ。ただ、目は赤く、髪は白いらしい」


 ――目は赤く、髪は白。

 そして、肌の黒くない、“ハイエルフ”。――となると、2人の脳裏に浮かぶのはただ1人だ。


 ギルドの参謀的人物であり、物腰こそ柔らかいが、ギルド内では一番“尖った”性格の持ち主。

 確かに実力者ではあるが、歴史に名を残すとしたら“英雄”よりは“梟雄”と呼ばれそうな男で、ギルド内でもあまり逆らえない存在である。


「……三河……ぜ、絶対に口に出すなよ、来るから」

「も、勿論」


 そして恐ろしい地獄耳であり、話に出すとどこからか現れるのがまた恐ろしい。


 彼の名は、エイリアン。

 プレイヤー達の間では、畏敬と恐怖を込めて“ありえん人”と呼ばれていた青年である。


「心当たりが?」

「いやいや全然」

「まったく無いっすね」


 白々しい言葉にマズディルが眉を顰め、ラドウィルも目を僅かに細める。

 しかしどんな顔をされようが、権力で脅されようが、2人はエイリアンの事を口にする事はないだろう。

 ――国家権力より怖いものが、この世には存在するのだから。


「隠し立てするか? ――己のためにならんぞ」

「……いや、そういうつもりはないんだけどな」

「はっきり言いますが、あなたがたより奴の方が怖いっす」


 既に分析アナライズしているが、王族でありステータスに恵まれる筈の3人ですらレベルは100強程度だ。寿命が長いだけに人間よりは平均レベルが高いが、はっきり言って敵ではない。

 ちなみにNPCは、村人などのモブは低めのステータスに設定されているが、王族などのいわゆるユニークNPCは高レベルプレイヤー並に強い事も多い。


「そうか、ならば仕方あるまい」


 すっと目を細めると、上の2人に比べて元々が無表情なマズディルは雰囲気が鋭くなる。

 反射的に身構えた三河とサカサマだが、投げかけられたのは気の抜けるような言葉だった。


「……友達からのお願いなら駄目か?」

「駄目っす」


 一刀両断した三河だが、この後マズディルが落ち込んで会話にならなかったため、最終的には友人と認める事になった――というのは余談である。







というわけで三兄弟が揃いました。(長男は気絶中)

兄弟なのでほんのり統一感。

ちなみに容姿はよく似ているので、並ぶと成長過程、もしくは着せ替えみたいになる。

まともな格好をすれば全員キラキラしているが、長男は基本的に汗まみれ、次男は大抵仕事後でインクなどが付着している。


●長男・アルティノ

精霊都市軍の将軍。

指揮官としては優秀だが、基本的には馬鹿。

率いる兵に対してはかなり厳しい。自分にも厳しい。


●次男・ラドウィル

チャラい。軽い。ただし頭脳明晰。そしてお婆ちゃんっ子。

魔法関係の技師をしている。本屋ギルドに所属しているのは基本的に祖母のため。他の仕事もしている。

実は機動城壁の開発主任。


●三男・マズディル

幼少時からオールマイティな才能を発揮し、カリスマ性にも優れていたため、兄2人に代わって即位。

ただし天然ボケ気味である。

国王としては優秀。ちなみに王族も特別議員として一応は政治に参加している。ただし権利は他の議員と変わらない。しかし国民には“若様”と呼ばれ、親しまれている。

友達が欲しいお年頃。



ちなみに王族はみんなハイエルフ。

エルフと比べてステータス合計は高いが、肉体的には更に貧弱。

ただし、長い年月の中でエルフと血が混じっているため、彼らは普通のエルフとさほど変わらない。

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