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廃人たちとVR

番外過去編です。いつもと毛色が違います。


※エイプリルフールネタでしたが、過去編でもあります。

ギルド【アルテマ】VRMMO出張編。







 高校生になった時、2人はそれぞれ入学祝としてVR用の機器を親にプレゼントされた。

 卵型で、通常時は椅子の状態になっているが、ダイブ中にはベッドの状態になる。つまりはリクライニングチェアなのだ。

 寝返りは打てないが、ずっと同じ状態にならないように刺激を与える機能がある。――マッサージ機能の付いたものまであるらしい。人間の欲望は果てのないものである。


「じゃ、名前はそのまま。無理だったら足す」

「相変わらず適当だな。分かった」


 レオの家の前で、2人はそう言って別れた。


 ――本日は、VRMMO『ストレンジワールド』のオープンβテストが開始する日なのだ。

 リノは基本的に新しいモノが好きだ。という訳で、ペア抽選枠に当たったのを良い事に入学祝を決定し、このゲームをプレイする事に決めた。

 入学早々ゲームに熱中する予定である。


 本日は午前放下、食事は途中のコンビニで購入して食べながら来た。

 行儀は悪いが、あと3時間ほどでスタートするのだから食事になど構っていられない。


 メモに父親への伝言を書いてから、早速機器の用意を初める。

 そして椅子に深く座り、頭に被るヘルメットのような部分を下ろすと、連動して外側を覆う蓋の部分も閉じた。


(……スキー場のリフトみたい)


 などと思いつつ、両手を揃えて姿勢を整えた。

 あとはダイブするだけだ。手元にある認証用パネルに右手を押し当てる。ピッと音がして視界が暗くなり、すうっと眠りに落ちた。



 それから、キャラクターメイキングなどをしていく。

 特にこだわりはないので、スキャン済みの自分をベースに、髪と目の色だけ以前からやっているゲーム――レイステイル・オンラインのキャラクターに合わせて青と金に変えた。顔立ちもそれに合わせてやや西洋系に変えていく。

 そして種族を決定する。どうやら既存の種族は使用していないようで、人間すら居ない。

 とりあえず一番癖のありそうな〈イメリア〉種にすると、耳が少し尖り、体に髪と同じ青の模様が浮かび上がっていく。顔には僅かだが、腕や足にはかなり密集していた。


 〈イメリア〉種 -古代から続く民族。幼少時から少しずつ体に刺青を足していく風習がある。ボーナス《呪術S》《体術A》 【装備制限:5s以上の装備不可】


 これでいいか、と決める。

 このゲームはスキル制だ。初期スキルは10取れて、あとはスキルカードを購入して増やしていくという。リノは体の性能に合わせて、まず呪術を取る。次に体術スキル。これは柔術や空手のようなスキルを強化するものらしい。


 最終的には、こうなった。

 《呪術》《体術》《自由格闘》《回避》《料理》《調合》《気迫》《飛行術》《呼吸法》《慧眼》

 ――後々、地雷スキルと呼ばれる運命にあるものを半分も選んでいるのだが、今の彼女には知る由もない。ちなみに〈イメリア〉も地雷種族と呼ばれる事になる。


 リノは、周囲から縛りプレイと取られかねない選択ばかりをしてしまう性質だ。

 ついでに現実ではトラブルを、ゲームではイベントをやたら寄せ付ける。

 更に、やたらとリアルラックがある。ゲーム内では。


 故に、時間が来てログインし、名前を入力した直後、こうなった。


『プレイヤー7人目記念ボーナス! 装備一式プレゼント』


 インベントリを見てみれば、初期装備より格段に性能のいい装備が入っている。

 素材は[竜皮]で統一されている。明らかに初心者の手に入れられるものではなかった。


「お、リノか? なあ、何かプレイヤー11人目記念とか何とか」


 そしてまた、幼馴染のこの男も微妙に運が良い。

 というかこのゲーム、やたらと太っ腹である。……いや、ゲーム内のアイテムで懐が痛むわけでもないので、客寄せとしては得策かもしれないが。


「レオ、君も――っうえあ」

「うえあって何だよ」

「いや、言いたくもなるよ!」


 レオの容姿はと言うと、金髪碧眼、やはりレイステイルの時のアバターとあまり変わらないのだが――その額に、もう一つ目が付いていた。


「三つ目って……え、スキル? 種族?」

「〈サイルス〉って種族。一番力が強かった」

「ああ、君ってそういう奴だったよね……うん、よく分かった」


 リノとは逆に、比較的王道系を選ぶクセがあるらしい。三つ目を除けば、正統派極まりない金髪碧眼の剣士である。

 彼もまた初期装備ではない銀色の鎧を纏っている。スタート時のボーナスとして幾つかアイテムがあるから、今すぐ狩りに出てもよさそうだった。


「じゃあ、チュートリアルクエストから進めよう――と言いたいところだけど、報酬は武器と防具らしいから、普通に狩りに出よう。初期装備売って回復アイテムとか買えばいいし」

「わかった」


 特に聞き返さずに頷く。金銭とアイテムは殆どリノが管理するので、されるがままだと言ってもいいのだ。

 リノはインベントリを操作し、装備を変更した。わざわざ脱いだり着たりしなくても、ウィンドウを操作するだけでいい。

 ちなみにウィンドウは脳裏に浮かぶようなタイプで、本当に出てくる訳では無い。


 迷う様子もなく、増え始めたプレイヤーの間を潜り抜けて近くの店に向かう。しっかりマップなどを頭に入れてあるらしい。

 そして狩りに必要であろうアイテムを揃え、2人はさっそく狩りに出た。





 オープンβが終わると、キャラクターのスキルレベルは一旦リセットされる。

 正式サービス開始時に引継ぎできるのはキャラクター名と容姿、アイテムのみだ。


 その頃にはすっかり2人は有名になっていた。

 何しろ、地雷スキルと人が言うようなスキルを使いこなし、ネタ種族と呼ばれる種族を使いこなして、1人で斥候から補助までこなす少女と、ベタベタで正統派だが回りから頭一つ飛び出たプレイヤースキル(=キャラクターの性能を除く腕前)を持つレオ。

 ギルドの勧誘には応じず、ついに2人だけでギルドを作っただとか(結成にはかなりの金銭を要する)、このゲームの最大の目標である迷宮を既に50階までペアでクリアしただとか、武勇伝は数多い。

 流石にトップギルドには及ばないが、かなり高位に居ることは間違いない。


 そして正式サービスが開始し、レイステイル・オンラインでの仲間も殆どがストレンジワールドをプレイする事になった。

 移住という訳では無い。ただの息抜きである。


 あらかじめ集合場所を決めておいたので、ログインしてすぐに移動する。

 オープンβからの変更は幾つかある。まず最大のものとしては性別の制限が無くなった。つまり本来と違う性別でプレイできる訳だ。スキルも幾つか追加されたり削除されたりした。

 バグもかなり改善したし、オープンβ参加者には記念アイテムが配られた。

 ちなみにギルドや拠点も一度削除され、もう一度結成し直す事になる。 


 リノとレオは【ぽんでらいおん】というギルド名で活動していたが、特にギルドに関するクエストなどは進めていなかったし、拠点も弄らなかった。

 なんというか、レイステイルでのギルド【アルテマ】への帰属意識が強いのだ。ギルドメンバーがこのゲームをプレイするなら、こちらで組み直す予定だ。


 暫くすると、メンバーが集まってきた。

 ギルドマスターである百地穂波を初め、エイリアン、キリト、クロロホルム、三河、と集まって――最後にやって来たサカサマを見て、全員が無言になる。


「やーっほー☆ みんなーっ、元気ぃ?」 

「……」

「……」


 初期装備ではあるものの、今回のアバターは空色のくるくるとパーマのかかった髪に赤い瞳、低めの背でほっそりして貧乳、なかなか力の入った造形だ。

 しかし、そういう問題ではない。

 堪え切れずに、1人が叫んだ。


「……ッ歩き方!」


 そう、――彼女、いや彼の歩き方は、中身であるオッサンそのものだった。


 プレイヤー名、サカサマ。

 坂田将一、37歳。


 もちろんネカマである。



 結局、このサカサマの残念ぶりや、街で大量に見かけた同タイプの男女に全員が少しずつげんなりしていき、やっぱり巣に帰ろう、という結論に至る。

 結成一ヶ月という僅かな期間で姿を消したものの、アルテマはこのゲームでもまた伝説を作ったとか作らなかったとか――そんな話。






VRモノも挑戦してみたいなあと思って手近なところで済ませた結果がこれだよ!

ところで、ギルドメンバーが名前だけですが出揃いました。本編での登場はまだまだ先になりますが。


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