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幼馴染と遊び人








「よし」


 一通りアイテムボックスを整理し、実用的な――生活に必要そうなアイテムと、そうでないものを分け終わる。

 部屋が暗くなっていく事にも気づかずに作業とリノの話に集中していたレオは、ふと声が聞こえなくなっている事に気づいた。


「……リノ?」


 横を見ると、ベッドでリノが寝入っている。

 時刻、午前2時。

 以前であれば平気で起きていられた時間帯だが、やはり疲れが溜まるのだろう。


(……また何か首突っ込んでたし)


 なんだかんだで話はしっかり聞いている。

 異世界に場を移そうが、やはりリノはリノだな、と呆れ半分安心半分の気持ちである。

 昔から、レオが女性に目を付けられるのと同じ程にトラブルに愛される性質だ。お互いそういう星に生まれたものだと思っている。

 それでも、助け合えばどちらも解決できるし、回避も可能だ。だから離れて生活すれば数日とせず疲労が溜まるのは仕方の無い事だった。


 そもそも他人と居るだけで面倒くさいと感じるレオにとって、ここ数日は本当に拷問だった。

 人間は誰しも違う。合わないピースは合わないもので、それを曲げられるかどうかは人によりけりだが、レオには無理だ。苦痛で仕方ない。

 だから再会の喜びはそれはもう尋常ではなかった。砂漠でオアシスを見つけた心境である。

 普段は割とぼんやりしているレオがそういう時だけ尻尾を振るので、周りはますます誤解する。リノは周囲からのそういう視線を死ぬほど嫌っていた。


(……、どうするかな)


 リノに説明をしてもらっている間、言おうか言うまいか迷っている事項があった。

 重要だが、言わなくても困ることはない事実。

 いつかは言わなければいけないが、非常にタイミングに困るデリケートな問題だ。


(めんどくせ……)


 そう思いながら、ふあ、と口を開けて欠伸をする。

 ベッドにぼすんと座り、整理し終えたアイテムボックスを操作して楽そうな服に着替え、ごろんと転がる。

 自然に片側を開けて眠っているのは、2人纏めてベビーベッドに転がされていた頃からの癖だ。

 リノの頭を持ち上げて、ひょいと片腕を差し込む。するともぞもぞと動いてごく自然に定位置に移動し、猫でも抱いて眠っているような体勢になった。


 周りが言うような関係に無いことは確かだが、とにかく2人は隣り合ったパズルのピースのように気が合う。元々二枚しかピースが無かったと言った方が正しいかもしれない。

 隣り合うぬくもりは、目を閉じてしまえばもう本来の彼女と何ら変わりないように思えた。けれど脳裏に焼きつくような光景は、紛れも無く真実で。

 いずれそれを話さなければいけないと思うと気が滅入るが、やはり彼も疲れていたのだろうか、すぐに意識は沈んでいった。





 翌朝、六時きっかりにリノが目を覚ましてもぞもぞとベッドを抜け出して部屋に戻ったのをぼんやり確認して、再び起こされる七時半までレオは惰眠を貪った。


「ぐぇ」


 世の幼馴染達がはたしてそうしているかは不明だが、リノは躊躇いなく仰向けになっているレオの腹の上に正座で飛び乗った。

 以前より硬いとも柔いとも思えない腹筋だが、元の体と違って飛び乗った程度ではびくともしない。それを少しつまらなく思いつつ、ベッドの脇にどいたリノはびしりと命令した。


「腹筋腕立てスクワット50ずつ」

「うーい……」


 足を曲げて寝転がると、その足の上に座って脛を背凭れ代わりにする。

 首を膝に預ければ、体を起こしたレオと目が合った。


「……うわ無駄に美形ー」

「お前も無駄に美少女だな」


 無駄口を叩きながらでも、腹筋50回はさほどきついものではない。以前より体力が上がっているのか、少しも疲れを感じることが無かった。

 腕立て伏せの際も、容赦なく背中に胡坐を掻いて体重を掛けてくるにも関わらず、あまり負担だと感じなくなっている。


「女が胡坐ってのはどうなんだろうな」

「どうなんだと言うなら、未婚女性が平然と男の背中に座ったりしてるのもどうだろう」

「俺は保護者だから良し」

「何言ってるんだ、僕が保護者だろう」


 ぴたりと動きが止まる。


「いやいやいや」

「はあ? あ、あと7回」

「お前が俺の保護者? いや、無いだろ。見た目からして、無い」

「僕の方が5日分年上だろう」


 不毛な言い争いをしながらトレーニングを終えて、服を着替える。アイテムボックスで指定すれば手間が掛からないので、面倒くさがりのレオにとってはラッキーな事であった。


「とりあえず、あの連中が来る前に街に出よう」

「……そういや、いつ家行くんだ?」

「もうちょっと色々見たいから」

「ふーん」


 興味なさげに返事をし、リノの分の鍵を受け取って纏めてカウンターに出す。

 相変わらずの笑顔でディルクが鍵を受け取り、2人は街に繰り出した。


 ――そして一秒もせずにトラブルに遭遇するあたり、やはりそういう体質なのだろうか。


「どきなさい、小娘」


 パンツスーツ姿、濃いピンクに青メッシュを入れたショートヘアの眼鏡の女性。

 整った顔立ちではあるものの、今はその赤い瞳から冷たい怒りが滲み出ている。


「ああ? アンタが謝るまでどかないっつってんでしょ」


 こちらに背を向けているものの、茶色のショートカットで腰に剣を提げた女性などそうそう居ない。間違いなく、つい先日会った人間だった。


「じ、ジーナ……やめましょう、こんな……」

「ああ? いいっての? レマリーが泣かされてんのよ」

「あ、あのっ、自業自得ですから……っ」

「あたしが納まり付かないのよ!」


 その後ろで縮こまる2人にも見覚えがありすぎる。

 リノは思わず深く溜息を吐き、レオの服の背中を握って項垂れた。


「逃げよう」

「うん?」


 しかし声を出したのが運の尽きだった。

 怒りの空気が霧散したかと思うとスーツの女性――ヴィヴィアンの姿が掻き消える。もう片方の女性、ジーナが焦ったようにばっと振り向いた。

 跳んだ方向が分かっただけでも凄い事ではあるのだが、既にそこには居ない。


「ご主人さまああぁぁっ! どうしてお逃げになるんですのっ」

「いやー……えーと」

「私っ、私……会いたくて会いたくて会いたくてもういてもたっても! ああご主人様ぁっ、そんなつれない子猫ちゃんのような態度はおやめくださいませ!」

「ごめん今すごい鳥肌立った」


 阿呆らしいやり取りをしながら、周りには出たり消えたりしているとしか思えない速度で逃げ回るリノと、速度では敵わないのに何故かきっちり捕捉して突撃するヴィヴィアン。

 愛はステータスを上回るらしく、20秒ほどで捕獲される。すりすりと頬擦りを繰り返し、髪を掬い上げて匂いを嗅ぎ、抱き上げて首筋に顔を埋めて深く吸い込む。


「……」


 死んだ魚のような目でリノがぴくりとも動かなくなった。


「目で追う事すら出来ないなんて……」

「じ、ジーナ、無理はありませんわ」

「あれって瞬間移動じゃないんですか」


 一方のジーナは膝を付いて己の無力を悔やんでいるが、それすらリノの目には全く入っていない。レオはここまで死にそうな顔をしているのも珍しい、と場違いにも感心していた。


「どうすっかな」


 混沌とした空間。

 レオはとりあえず路上で変態行為に勤しむピンク頭から幼馴染をどうやって引き剥がそうかと思案し始めるのであった。






結構ドライで面倒臭がり。少年漫画には向かない系。


たぶん第二の主人公です。

よろしくお願いします。

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