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A side 2 -1

 鬼無里南萌(きなさみなも)は完全無欠の情報屋である同時に探偵でもある。

 属性の異なり、相反するこの二つの仕事(ひまつぶし)を南萌はなぜしているのかは分からないけれど。まぁそれだけの能力があるという事だけは間違いない。


 確かにフィクションで探偵や刑事といった職種には非合法で優秀な情報屋が付き物であるが、南萌は両方を一人でこなすほど変わり者である。


 最近は部屋に引きこもってパソコンばかり操作していると思ったら、急に外に調べ物に出たりする生活を繰り返している。


 仕事を分担しないのに、妥協しない性格なので当然忙しく、ほとんど眠っていないようである。


 南萌の話では、僕は既に仄火(ほのか)を追っていた人たちに顔がバレてしまっているので(どこまでの情報が知られているのかは分からないけど)、外出時には変装が必須となっている。


 仄火は引きこもりなので変装するかは知らないが。南萌はまったくバレていないので、そのままで(和服姿で)外出するので、かえって目立っていないのか僕が心配しているわけだ。


 現在の僕は、ニット帽と伊達眼鏡を装着している。一応変装だ。やりすぎると不自然らしいのでこの程度にとどめておいたのだ。そう考えると変装が得意な能力って意外と便利だよな。そんな人は現実にいないだろうけど。


 そうそう、一応テロリストにドラフト二位指名の僕が、なぜ外出しているかというと、仄火に買い物を頼まれたからだ。

 僕の仕事は雑用ではないのだけれど、かといって他にすることがあるわけでもないので、今はそんなことばかりしている。


 外食も出来ないし、ルームサービスは高いので、弁当を買ったりもしていたのだけど、二人が「飽きた」と言い出すので結局僕が作ることになってしまった。

 メンバーは三人いるわけだが、仄火はこれからのことを考え、南萌は仲間集めの情報探しで忙しく、空いているのは僕しかいない。

 手伝うなんて大言壮語をしておいて、使い物にならないのは辛いのだ。元々大したすることもないのだし。


 こうして食担当、という決まりがいつの間にかできてしまった。


 僕らの生活スペース兼悪事企み場であるホテルのすぐ目の前にあるコンビニには人がほとんどおらず、アルバイトであろうコンビニ店員の男性も暇でラッキーなんて思っているのだろうが、顔に出すことなく淡々としていた。


 かごには2ℓのコーラ、お菓子、生活用品、コーラ、食材、コーラ、コーラ……コーラが満杯まで入っている。この大量のコーラは僕ではなく全て仄火が飲むものだ。異常といえるほどコーラに陶酔している彼女は一日でも黒の炭酸液を摂取し損なうと、すごいことになるそうだ。確認したい気もするけど、間違いなく僕に実害を及ぼしそうなので、保留にしておく。


 レジにて少し待って、料金を支払う。

 うわ、金額の八割はコーラだよ。レジの人も「この人コーラどれだけ飲むんだよ」的オーラを発していたので(被害妄想あり)足早に店を出て、ホテルに戻ることにする。


 当たり前の話だが、仄火の支援者とか、協力者とか、「救世主様ー」とか言っているホテルではなく、極めて普通の(健全な)ホテルなのでテロリストであるがお金を払わなければならない。別に踏み倒そうとか、逆に巻き上げるとか考えているわけじゃないけど、僕らは別に金持ちではない。


 仄火はパトロンも探しているみたいだけど、テロリストに協力する人がいるとは思えないし(いたとしても怪しいけれど)、そういう人を探すのは危ない賭けにも等しいので無理だろう。いざとなれば、いくらでも稼ぐ手というのはあるものだ。


 高級でも低級でもないエントランスホールを歩き、エレベーターに乗る。行き先は十二階。ホテルのほぼ真ん中に位置する階層だ。


 止まることなく十二階にたどり着き、落ち着いた雰囲気の廊下をまっすぐに進む。突き当りを右に曲がってすぐの部屋。ここが僕らの仮住まいだ。


 住まいといえば、僕の家はどうなったのだろうか。お金とかもいくらか置きっぱなしだし、どうしようか。一度帰ったほうがいいだろうか。いや、ここからは距離もあるし、たいした思い入れもないからどうでもいいか。


 管理人さんはどう思うだろう。いやどうも思わないか。どっちにしろ。


 扉を開錠して、中に入る。

 ホテルというよりは、完全に居住スペースをコンセプトに造られており、リビング、ダイニング、キッチン、他に八畳ほどの部屋が二つある。バスルームとトイレも別々だ。


 八畳の部屋は入り口から見て左側が南萌の部屋で、ばかでかいサーバーやパソコンが何台もおいてある。


 右側が、仄火が精神集中するための部屋だ。

 つまり僕には部屋が与えられておらず、寝る場所もリビングのソファーかその辺の床しかない。仄火の部屋にはベッドが二つ用意されているのだけれど、さすがにそこで寝るのは気が引けるというか、色々まずいでしょう。


 リビングに行くと、仄火が「待っていました」と言わんばかりの形相で迎えてくれた。この場合は待っていたのは僕ではなく。


「はい、コーラ買ってきたよ」

「まったく、遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 そんな嬉しそうに言わなくても。顔がにやけている。

「重かったからさ、冷蔵庫に入れる?」

「一本は今飲むから抜いてくれ。それ以外は入るはずだから頼む。ああ、ついでにコップも取ってくれ」


 下手すれば破れかねない状態の袋からコーラを一本取り出しテーブルに置く。買ってきたばかりなので一応冷えてはいるが、氷も用意したほうがいいだろう。


 袋も持ち直し、キッチンに向かう。途中、南萌に部屋から機械の稼動音が聞こえたが、扉に備え付けられたボードに外出中と書かれていたので、まだ帰ってきてないのかと心配してしまう。


 南萌はもうしばらく帰ってこないかも、と思いつつ冷蔵庫にコーラを収納していく。次はグラスだ。棚から備えつきのグラスを取り出し、氷を半分ほどまで入れ、リビングに戻る。


 ペットボトルのフタを開けてすでに待ったいた仄火は、僕からグラスを受け取るとすぐにコーラを注ぎ、一気に口に流し込んだ。

 豪快な飲み方だ。風呂上りの牛乳よろしく女の子の飲み方とは思えなかった。


 仄火は驚きの速さでペットボトル内を空気で満たしていく。

 僕が凝視していたからだろう。仄火はテーブルを挟んで反対側に座る僕にこう言った。


「なんだ明夢(あきむ)、君も飲みたいのか。コップはそういえば君の分がなかったな……ほら、特別だからな」

 渋々といった感じでまだ中身の入ったコップを僕に差し出した。


 さて、状況整理だ。


 僕と仄火はテーブルを挟んで向かい合って座っている。オーケイ、問題ない。テーブルの上には残り三割ほどのコーラのペットボトルだ。まったく問題ない。ここには誰がいて誰がいない? 僕と仄火がいて、南萌がいない。いいだろう。仄火がこちらに差し出したのは何だ。コーラの入ったグラスだ。いやそうではない。そうではあるがそれだけじゃない。間違ってはいないが真実かといえば戸惑う。情報が足りない。感情が情報化されていない。グラスは……一つだ。僕のはないし、南萌のは彼女の部屋だろう。これは仄火のグラスだ。ホテルの備え付けではあったが、今は仄火のだ。そのグラスは……コーラが入っている。


 言い換えよう。


 そのグラスに入っているコーラは仄火の飲みかけで、グラスは何度も仄火が使用していた。

 つまり。

 

 ……間接キスだー! 


 失礼、かなり壊れてました。修復は不可能だけど、微修正と誤魔化しは得意分野なので問題ない。顔にも出てないはず。


 何も反応しなかった為か、仄火は不可能な視線を向けてくる。

 脳内では処理能力を超えるほど反応しまくりだったのだが、まぁいいとして。どうしよう?


 取っ手があるグラスなら、どこに口をつけたか分かるんだけど。いや、避けるためだからね。そんな変態チックな人間じゃないから。それに仄火の「特別だからな」とは、特別にコーラを飲ませてやるという意味合いであって、「特別に私が使ったグラスを使わせて、あ・げ・る」(脳内妄想発動中)という意味ではないのだ。


 この場における最良の選択は。


① グラスを取り、素知らぬふりでコーラを飲む。


② 流儀に反するので、ポリエチレン・テレフタレート樹脂製の瓶。ようはペットボトルのほうを取り、飲む。


③ もう一つのコップを……ないんだった。却下。


④ 脳内フル回転で用事を強制喚起して、言い訳しどこかへ立ち去る。


 解答。

「ガラナ派なので断固拒否」の別解⑤……では当然なく。

「いや、喉渇いてる訳じゃないから遠慮しておくよ」


 どこまでも臆病な僕だった。

 いや僕が一方的で押し付けがましく笑止千万な存在で周囲嘲笑ものの勘違い野朗なだけなんだろう。

「そうか」

 僕の無駄な長考を一言で切り捨て、コーラを飲む仄火。


 あーあ。


 いや別に残念とかそういう訳ではなく。

 ……喉渇いたな。でも前言撤回するほどの勇気やふてぶてしさが微塵とたりともあるはずがないからな。ましてや冷蔵庫のコーラに手を出そうものなら……怒られるでは済まないだろうな。


 仕方がないか。……仕方ないよな。

「あのさ、仄火。ちょっとその辺見てきていいかな? 勿論変装なら」


 僕が言い切る前に仄火が遮る。

「女装だな。(かつら)あるぞ。服あるぞ。化粧もしていくがいい」

 だから嫌だったのだ。

 結局の所、自業自得とも言いますか、アホらしく。

 

 仄火と南萌は何かと理由をつけては、僕に女装をさせたがる。その理由を聞くと、『事実を言えばお前はきっと女だ』『神の手違いとはこのことを言うのかな、いやむしろこれが狙いか。無神論者の僕が言うのもなんだけど』『お前は女装をするためだけに生まれてきたのだろう』『しかしなぜ君はこうもそんな顔、つまりそれを童顔と言うのかい? いや子供っぽいともまた違うからね、どうしたものか。とにかく女装をするべきかな』などと要領の得ない解答も含みつつ僕の存在理由を危ぶませるのであった。


 先ほどは『女装させるなら買い物に行かないよ』と言って、徹底抗戦を試みたが(仮に南萌がいたなら僕はあっさり彼女達に降り、女装して買い物に生かされていたことだろう)、わざわざ外に水分を取るだけの為に女装をしなければいけないのはゴメンだ。全くどんな図式だよ。


「仄火落ち着いて。君らしくもない」

 冷静沈着が代名詞の仄火のはずなのに、時々暴走することがある。こうなっては手がつけられない。


「済まない。取り乱してしまった。しかし、譲る訳にはいかんな」

「何でだよ!」


 仄火が僕の腕を捕らえようとしてきたので、手を引いてかわす。

「ああ、そういえば南萌からの情報だが君は顔だけでなく名前すら世界に知られたようだ。公表されるのは時間の問題と見たほうがいいな。これで君は名実共にテロリストという訳……だ!」


 この場でいう世界とは、仄火が敵対する機関『世界政府』のことだろう。この間、彼女を追跡していたのは政府の手下で間違いなかったようだ。そのときに僕の顔が見られたということらしい。テロリストの仲間入りは別にいいんだけど、それらしいこと全くしてないしな。一般人よりも非力って言っても過言ではないし。


 声と共に、僕を女装させると言う謎の目的の為に仄火は襲い掛かってきた。

 スライドするようにステップして再びかわす。


 ……一体僕らは何をやっているのでしょうか?


変態ばっかり。

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