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B side 2 -1

 現在、僕達の組織はホテルを転々としていた生活を止めて、とある場所に定住している。辺りに住居はなく、閑静な地域だ。実のところ、メンバーの一人が持っていた私有地で完全に山中にある。


 そのひっそりと外界の影響を一切受けないかのように感じさせる建物は、無駄に広い本棟とそこから渡り廊下で繋がっている六角形の別棟が両側に隣接してある。庭には数種類の作物が栽培されている畑と、そのすぐ近くに小川が流れている。


 こういう環境にいると、全てを忘れることが出来る……といいんだけどね。


 南萌みなもと別れたあと、僕はいくつかの相談事項と話し合いの為、花蘭からんさんを探していた。いつもは庭周辺にいることが多いのだが、先ほどは姿がなかったので自室にいるのだろうか。

 本棟の階段を上り、二階の廊下を歩いていると声が聞こえてきた。


「ドローツー!」

 一階大広間かに気合いの入った声が響く。

 はじめさんの声だ。

 大広間は吹き抜けになっており、二階からでも下の様子がハッキリ分かる。

 やっているのは【USO】と呼ばれるらしいローカルカードゲームだ。


 【USO】のルールは慣れてしまえば単純だ。カードには通常カードと特殊カードがある。

 通常カードは四種類の色のどれかと0から9までの数字の組み合わせになっている。

 特殊カードは場に出すと様々な効果を生み出すものがあり、相手に山札からカードを二枚引かせる『ドローツー』、相手の順番を飛ばす『裏金』、時計回りと反時計回りを入れ替える『賄賂』、色を変えることが出来る『闇金』。


 手札は七枚前後で、場に出されたカードと同じ色、または数字のみ出すことができる。特殊カードの場合対応する色があれば場に出すことができる。


 特殊ルールとして、一番最初に山札から表向きに出すカード以外は基本的に裏向きで場に出すことになる。ちなみに特殊カードに関しては表向きで出す。だしたプレイヤーは色と数字を宣言するが、宣言内容と出したカードは異なっていてもいいのが特殊ルールの肝となる。


 そして手札に、相手が場に出したカードを改めることができる特殊カード『嘘だ!』があれば、場に出たカードを確認し、宣言と同じカードの場合、今まで場に出されていたカード全てを自分の手札とし、宣言と異なる場合、場のカードは宣言者の手札となる。特殊カード『嘘だ!』は自分のターンに使えず、使用時には山札からも取り除き、そのゲーム中には使うことができなくなる。


 特殊カードはそのほかに、『嘘だ!』でプレイヤーが失敗した場合にプレイヤーの手札にせず、そのほかのプレイヤーで一度だけ分担する『連帯保証人』、三ターンの間全てのカードを表向きにする『この人、痴漢です』、二ターンの特殊カードを使えない『経営破綻』などがあり、使いどころが難しい。


 このゲームは心理戦と運、戦略が重視される。いかに嘘つきであり、それを悟られないか。恨みを買わないようにするか。


 中々奥深いゲームである。


 一さんが持ってきた海外のゲームらしいが、どこかで見たような内容なので、大方コピー商品かもしれない。楽しめれば関係ないか。


 しかし、三人でやるゲームではない。推奨人数は五人以上だ。

  

 一/金さえ払えば何でも運ぶ地理関係のスペシャリスト。


 紫月和しづきのどか/自己矛盾を内包した最強の調停人。


 遊皆ゆみな仄火ほのかのブレーンであり友人の少女。

 

 僕としてはどうにもやりにくい面々が集まるのはどうにも奇妙な組み合わせな気がして他ならない。


 行われているカードゲームは非常に白熱した雰囲気を醸しだしていた。


「甘いぜ、そらドローツー」

 和さんが、名称を付けるとしたら『天空落し』とでも言えそうな豪快な技をくりだした。

 無駄にカッコいいのはあの人の特権だろう。


 順番は時計回りで、次は不敵な笑みを浮かべた遊皆の番だ。彼女はあらかじめ裏向きにして別に伏せていたカードに手をかけ、ひっくり返した。

「特殊カードオープン。ドローツー。とっとと六枚引いちゃいな」


「まだ負けてねーよ、ドローツー」

「まだ持ってたのか、運び屋。もう九敗もしてるだろ、さっさとあきらめろ、ほらドローツー」

 

 三人がただ単純にカードゲームをするはずがない。おそらくは罰ゲームでも決めているのだろう。


「とっとと負けて恥を晒して、ジュースをオツカイしちゃいなドローツー」


 遊皆が勝利した時は、飲み物を買いに行くらしい。実際のところここは山奥なので、本当に買いに行くとしたら山を降りなければならない。最低二時間はかかるだろう、僕なら。一さんならもっと早いとは思うけどそれでも行きたいと思うはずはない。


「いや、ありえねぇっての。お前はともかくこの変人の命令はどれだけ過酷だと思ってんだドローツー」

「変人だと? 生まれてきたこと後悔させてやろうか」


 和さんは誰よりも強いのに、短気だから手のつけようがない。言葉が通じないタイプは僕としては遠慮しておきたいものである。


 和さんがテーブルにドローツーのカードを投げ捨てる。

 この人は間違いなく有言実行型だ。

 先に折れたのはやはりと言うか、一さんだった。


「悪かったよ、罰ゲームくらい受けてやるよ」

 彼は世界一の運び屋かもしれないが、戦闘力で考えると決して高い部類ではない。和さんと戦えば塵芥ちりあくたの仲間入りになるかもしれない。


「じゃあ急いで買いに行ってね」

 と笑顔のまま命令するのは遊皆であった。彼女が一番恐ろしい存在かもしれない思った。


 まじかよ、と呟いた一さんだったが彼女が本気であることが分かると、脱力してそのまま大広間から出て行くのであった。


 不意に少女が顔を上げた。偶然かもしれないし、視線を感じたのかもしれないが、僕と遊皆の視線が交錯する。その笑顔という名の仮面からは何も読み取れなかった。


半ば避けるように顔を背け、僕はあの未来視の元へ歩き出した。


       /


 二階からの観戦していた明夢あきむが去った後、遊皆と和が話をしていた。

「もしアタシが負けたら、なんて命令する気だったんだ?」

「あなたにおつかいさせてもつまらないからね、そうだね、あなたの心の内を晒したいかな」


 和は露骨に嫌そうな顔をした。

「かわいい顔してえげつのねぇやつだな」

「ふふ、冗談に決まってるでしょ。そんなこと知ったって役に立ちそうにないし。それよりあなたは私になんておねだりするつもりだったの?」


 色々と言いたいこともあったが、それらには目を瞑り、和は静かに聞いた。

「おまえは、いやおまえらは何を知っている? 何を隠している?」

 ここまできて気になっていた疑念をぶつけた。

「あたしがききたいのはそれだけだ」

 和はそれだけ口にすると、どこかへ歩いていってしまった。


 遊皆が敗者ではない以上、質問されようが答えることはない。


 ただ彼女は笑っていた。

 面白可笑しそうに心から。


「私たちが何を隠しているか。知ったら驚くかもね、ふふ」


 独白は誰に聞かれることもなく、虚空へと消えた。

USOはUNO+ダウト+α のようなゲームです。

どんどんカオス化してる。

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