今日も婚約者のお弁当を作りたい。
「リリーゼが作ってくれたものは、味がする。美味しいね」
婚約者のオーウェン様がはにかんだ顔が、印象的だったのをよく覚えている。
私とオーウェン様が婚約したのは、私が10歳で、彼が12歳の時だった。
一緒にケーキを食べていた時、オーウェン様のお皿の上のケーキが全然減らないのを見て、私は首を傾げたのだ。
「ケーキ、好きじゃないのですか?」
「うーん、ケーキがというより、何を食べてもあんまり味がしないんだ」
困ったように笑うオーウェン様に、もっと首を傾げた。
「味がしない?」
「そう。なんか甘い気がするとか、しょっぱい気がするとかはわかるのだけれど」
「よくわからないです…」
「あはは、そうだよね」
そう言って、隣に座る私の頭を撫でたオーウェン様は、自分よりずっと大人に見えて、子ども扱いされているとわかって、ちょっとだけムッとしたのだ。
だから、私はそのまま思いついたことを言ったのだ。
「だったら、今度は私が作ってあげます!」
「リリーゼ嬢が、作ってくれるの…?」
「はい!美味しいって言わせてみせます!」
私の宣言に、オーウェン様は眩しそうに笑った。
その顔が泣きそうに見えて、私はむずむずして、もやもやしたから、すぐに立ち上がった。
「今から、作ってきますっ!」
「え」
そう言って、オーウェン様を置いて厨房に向かった。
大変我儘を言って、料理長に私でも簡単にできるものを教えてほしいと頼み込んで、オムレツを作った。
料理したのも、厨房で作業をしたのも、この時がはじめてだった。
形の崩れたぐちゃぐちゃのオムレツを持って、部屋に戻った。
私が自慢げに差し出すと、オーウェン様は目をパチパチさせていた。
「リリーゼ嬢は、料理ができるんだね…?」
「今日はじめてしましたよ!」
「それは、すごいね」
びっくりしたままのオーウェン様に、私は自信満々に言った。
「早く食べてみてください!」
「うん、いただきます」
オーウェン様の口に運ばれていく黄色い卵を、私は見守った。
私の方が、ゴクリと喉が鳴った。
「…すごいね、リリーゼ嬢」
オーウェン様はゆっくりこっちを向いて、目を細めた。
「味がする、気がする…。いつもよりずっと美味しい。美味しいね」
「ほんとですか!?」
「うん、このオムレツ、僕好きだな」
「じゃあ、じゃあ!これから私がオーウェン様のご飯を作ってあげますね!」
「…僕の、ご飯を?」
「はい!もっと上手になったら、もっと美味しくなるかもしれません!だから、楽しみにしててくださいね!」
私は何もわかっていないまま無邪気にそう言うと、オーウェン様が太陽みたいに笑ったのだった。
あれから、8年。
できるだけ毎日、オーウェン様のお昼ご飯用にお弁当を作って渡してきた。
すっかり体の大きいガタイのいい騎士になったオーウェン様は、たくさん食べるので、作り甲斐がある。
私もすっかり料理やお菓子作りが趣味になっていた。
今では彩りや栄養まで考えられるようになったのだから、人って成長するものなのね。
「今日はお肉多めのお弁当になっていますよ、野菜も残さず食べてくださいね」
「わかった、今日もありがとう」
オーウェン様は仕事前に我が家に寄って、お弁当を取りに来るのも、私たちの当たり前になりつつある。
昔は私が届けに行ったけれど、学校や仕事など、互いの状況が変わるにつれてオーウェン様が自ら取りに来るようになったのだ。
私たちは忙しい日常の中、お弁当で繋がっている気がする。
「リリーゼのお弁当、楽しみ」
「お昼になってから開けてくださいね。早弁しちゃダメですよ」
「リリーゼの作るものだけ美味しいんだもの、待つのも大変なんだよ?」
ニコニコしながらお弁当を抱えるオーウェン様は、子どもみたいだ。
「もう、そんなこと言ってないで、さっさと仕事に行ってくださいな」
「はーい。行ってきます、リリーゼ」
「ええ、行ってらっしゃいませ。オーウェン様」
私たちはまだ結婚もしていないのに、まるでもう夫婦みたいだなと、思ったりする。
早く結婚して、朝お弁当を取りに来る時間を減らしてあげたいな。
最近の私の望みは、それだったりする。
次の日もお弁当を取りに来たオーウェン様は、私の顔を覗き込んだ。
「今日はお魚ですけど、ちゃんと食べてくださいね」
「リリーゼ、顔色がよくない気がするけど…」
「そうですか?自分ではあんまり変わらない気がしますけど」
「ならいいんだけど。無理はしないでね」
そう言って微笑んだオーウェン様の言う通り、翌日いつものようにお弁当を作ろうと早起きしたのに、うまく起き上がれなかった。
「お嬢様、熱がありますよ。今日は大人しくしていてくださいね」
「でも、お弁当…」
「オーウェン様にはもう連絡してありますので、大丈夫ですよ」
「そう…」
ベッドの中で、オーウェン様ごめんなさいと呟いたあと、私はもう一眠りするのだった。
次に起きた時には、オーウェン様が見舞いに来ていた。
「どうしたのですか、その格好…!?」
なぜかオーウェン様はエプロン姿で、よれよれだった。
「君の家の厨房をを借りて、パン粥を作ってみたんだ」
「オーウェン様がですか!?」
「うん、でも…」
しょぼんとしたオーウェン様が、すぐそばの椅子に座ると、項垂れたままお鍋を差し出された。
「自分で作ったものは、味がしないから、これが美味しいのかわからないんだ…」
「それでも作ってくれたんですね」
「だって、リリーゼがいつも作ってくれるから、こういう時くらい僕がって思って」
よく見ると、少し焦げているパン粥を見て、私が最初に作った歪なオムレツを思い出した。
ああ、あの時私が思ったみたいに、これを作ってきてくれたのかな。
私と同じくらい不器用なのにな。
「味がわからないから、これを君に食べさせていいのかわからなくて」
一応料理長にも味見をしてもらったから大丈夫だと思うんだけど…と、頼りなさげに眉を垂れさせるオーウェン様が可愛く見える。
そんなの、優しさ100%の味がするに決まっている。
「私だって、一緒です。オーウェン様、これ味するのかしらと思って作っていますよ」
「リリーゼの作ってくれるものは、なんでも美味しいよ」
「味がしなくても?」
「リリーゼが僕のために作ってくれたことに、意味があるんだ」
「ふふふっ、そうでしょう?だったら、私も同じですよ」
鍋を持つオーウェン様の手の甲に触れた。
私の方が熱いみたいで、オーウェン様の手はぬるく感じた。
「オーウェン様が、私のために作ってくれたものが食べたいです」
「…そっか、そうだよね」
そう言って、ようやく笑ってくれたオーウェン様に向かって、口を開けた。
「食べさせてくれませんか?」
「うえっ、あ、…失礼します」
なぜだか改まった言い方で、ぎこちなく私の口に運んでくれた。
ちょっと焦げていたけれど、やっぱり優しい味がした。
「美味しい」
「ほんと…?」
「はい、とっても美味しいです。ありがとうございますオーウェン様」
はじめて食べた婚約者の手作り粥は、今まで食べた物の中で一番好きだった。
「風邪が治ったら、すぐにまた作りますからね」
「ああ、ありがとう。これまでもずっと楽しみだったけど、今はもっと楽しみだ」
「私も、早く作って渡したいです」
私たちは顔を見合わせて、笑ってしまうのだった。
次に作るのは、オーウェン様が好きだと言ってくれたおかずばっかりのお弁当にしようかな。
了
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AI間接利用をやってみたくて、実験的に作りました。
・設定を考えてもらう(AI)→気に入った案に設定を加える(自分)→下書きを作ってもらう(AI)→下書きを元に書き直す(自分)→誤字修正と表現の加え(AI)→修正(自分)といった感じです。
いかがでしたかね?わたしの感想は「普段より書きにくい」でした!w




