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視覚情報の可能性
次に検証すべきだと考えたのは、もっとも分かりやすい要因――視覚である。
ゾウムシの視覚は一般に貧弱だとされている。
複眼は小さく、解像度も高くない。
それでも、「見えていないはずだ」と最初から除外する理由にはならない。
行動が視覚に依存している可能性があるなら、まずそこを確かめるのが順当だ。
そこで、以下の条件を設定した。
・飼育ケース全体を均一に暗くする
・観察者が完全に静止した状態で操作する
・衝立の表面に不透明な紙を貼り、完全に遮光する
結果は明確だった。
条件を変えても、行動に差は生じない。
暗闇でも、遮光下でも、個体は同期した。
この結果に、私は失望しなかった。
むしろ、興味が強まった。
視覚という最も単純な説明が退けられたことで、この行動には、別の手がかりが必要になると分かったからだ。




