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否定から始まる仮説

私が立てた仮説は、きわめて常識的なものだった。


・床材を通じた微振動

・観察者(私)の影の動き

・個体間フェロモンの放出


これらはいずれも、昆虫の行動としては珍しくない説明である。

そして問題は、それらを一つずつ潰しても、なお残る違和感だった。


特にフェロモン仮説は、私自身が最も頼りにしていた逃げ道だった。

「見えないが、嗅いでいる」

この説明は便利だし、安心できる。


だが、後述する追加観察によって、私はこの仮説を一度、棚上げせざるを得なくなる。


最初に私が行ったのは、きわめて単純な操作だった。


飼育ケースの中央に、薄いプラスチック板を立てた。

高さは個体の体長の十倍ほど。透明ではあるが、表面に細かな曇りがあり、向こう側の個体の輪郭はぼやけて見える。


この衝立は、最も簡易的に空間を隔てる即席の装置である。


私は自分でも驚くほど、期待していなかった。

「これで同期が止まれば、それで終わりだ」

その程度の軽い気持ちだった。


結果は――止まらなかった。

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