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同期と呼ぶには小さすぎる現象
ここで誤解を避けるために強調しておくと、これは派手な同期行動ではない。
羽ばたくわけでも、集団移動をするわけでもない。
わずかに脚が動く。
体が数ミリずれる。
触角が、ほんの一瞬、持ち上がる。
その程度の変化だ。
だが、問題はその発生条件だった。
ピンセットを入れる。
一匹をつまむ。
すると、ケースの反対側にいる個体が、同時に動く。
視線は合っていない。
振動も伝わっていない。
空気の流れも、説明にならない。
私は何度か、わざと動作を遅らせた。
ピンセットを入れたまま、数秒間、静止する。
――そんな牽制に騙されることもなく、行動は同期する。
観察ノート(Fig.3)は、この段階での記録の一部である。
言い訳めいた注釈や、主観的な感想が混じっているのは、そのためだ。
この時点で、私はまだ「発見」を信じていなかった。
Fig.3 観察ノート抜粋




