終わりに
この仮説を実証することは簡単だろう。
仮説が正しければ、重力変動の大きい場所では、同期は不安定になるか、あるいは成立しにくくなるはずである。
それは、これまで私が観察してきた現象を、最も直接的に試す方法でもあった。
しかし、その検証を行うために必要な行動――重力分布の異なる地域へ赴き、同様の観察を繰り返すことは、私には不可能だった。
私はもう、長い移動や継続的な作業に耐えられる身体ではない。
家の中を移動するだけでも、以前より時間がかかるようになっていた。
私にできたのは、身近な環境で、限られた条件の中で観察を重ね、仮説を整理するところまでだった。
ここまで書いてきたことが、老境に差し掛かった人間の思い込みや、孤独の中で増幅された連想の産物である可能性を、私自身が完全に否定できないことも、正直に記しておくべきだろう。
それでも、もし私が正気を保っているのだとしたら。
もし、この文章に記した観察と仮説が、単なる錯誤ではないのだとしたら。
この文書が、誰かの目に留まり、同じ違和感に気づいた人間の手に渡ることを、私はひそかに願っている。
フツウゾウムシは、特別な昆虫ではない。
今もどこかで、人目につかない場所を歩き、誰にも注目されることなく、同じ行動を繰り返しているはずだ。
もし、誰かが同じ現象に気づき、私には踏み込めなかった場所で検証を行い、真実にたどり着くことがあるのだとすれば。
それは、私にとって十分すぎる結末だと思う。




