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金色に瞳が染まる時、私の従者は世界を変える  作者: 727


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第31話 里長の選択

全身に微かな倦怠感と、魔力が全て入れ替わったかのような爽快感が入り混じる中、アリアは意識を取り戻した。

薄く目を開けると、里長システィアの家の寝台の上だった。ぼんやりとした視界が徐々に焦点を結ぶ。

その視界いっぱいに映ったのは、見慣れた銀髪と翠の瞳。

シルヴァは寝台の傍らに腰掛け、心配そうにアリアを見下ろしていた。


「リア……!」


シルヴァの表情には、安堵と、深い後悔の色が混ざり合っている。

アリアは身体を起こすと、そのまま無言でシルヴァに抱きついた。昨夜の絶望が、一気に安堵の波となって押し寄せ、シルヴァの無事を確認する。

シルヴァはアリアの震える身体を力強く抱き締め返した。


「すまない、無理をさせて悪かった……。目を覚ましてくれて、本当に良かった」


シルヴァが謝罪したのは、自分が傷ついたことではなく、アリアに危険な魔法を使わせたことだった。アリアは彼の胸に顔を埋めたまま、小さく首を横に振った。


「馬鹿ね。あなたが無事なら、それでいいのよ」


「身体はどうだ? システィアから聞いたぞ。致命傷だった俺が息を吹き返したのは、きっと生命エネルギーを分け与えたんだろうって。何て無茶な魔法を使うんだ」


抱擁を解き、アリアはすぐに自身の魔力と身体の奥深くの状態を確認する。

昨夜、自身のハイエルフとしての膨大な生命力を転送したはずだが、身体の衰えや魔力運用に支障が出るような寿命の短縮は感じられなかった。


「……特に問題なさそう」


転送した生命力は、ハイエルフである自分の長大な寿命から見れば、微々たるものだったのだろうか。


そう結論づけたが、あの魔法は表に出せるものではない。自分の命を削り、他者に生命を直接吹き込む魔法を創り上げた事実は、知られれば大ごととなるだろう。何せ現代の魔法でそんな魔法は存在しておらず、蘇生は神の奇跡としてしか語られていないのだから。

そういった意味では、ここが隠れ里というのは幸いだった。


名を上げるためだけであれば知れ渡るのもよしと思える。

しかし、何度も使える魔法ではないし、誰でも使える魔法でもない。アリアの膨大な魔力とハイエルフの寿命があってこそ成功したと言っても過言ではないだろう。しかも、この代償はいつかどこかで支払うことになるかもしれない。


「あの魔法は、あれっきりね……」

「そうしてくれ」


シルヴァが慈しむようにアリアの金髪を撫でる。

アリアを見つめるシルヴァの瞳に優しさを感じ、気恥ずかしさから目を逸らすと、外からは激しい怒声が聞こえてきた。


「何事かしら?」


シルヴァが顔を曇らせる。里長システィアの家の前では、保守派の里人たちがシスティアを取り囲み、昨夜の事件の責任を激しく糾弾していたのだ。


「里長! 結界を破壊し、里に外部の人間を連れ込んだ挙句、襲撃者を招いた責任はどう取るおつもりか!」

「死人こそ出なかったが、負傷者が多数出ている!」

「里の誇り、聖域の守護を、貴女は自ら手放したのだ!」


里人たちの激情に満ちた声を聞き、アリアは静かに寝台を降りた。


「行きましょう、シルヴァ」


家の扉を開け、その喧騒の中に足を踏み入れたアリアは、糾弾の嵐の中で孤立するシスティアと、負傷して包帯を身体のあちこちに巻いている里人たちを目にする。


アリアは口を開く前に、まず右手を掲げ、広範囲の治癒魔法を展開した。

それは一般的な魔術師が使うものとは比べ物にならない、圧倒的な魔力と精度を持つ治癒の波動だった。

ルミナスの神聖魔法大会で披露したものと同じ光が里全体を包み込み、負傷した里人たちの傷は一瞬にして塞がり、痛みも消え去る。


全員の傷を癒しきった後、アリアは静かに手を下ろした。場の空気は、アリアの規格外の力を前に、一瞬にして凍りついた。


アリアは硬直した里人たちに向かい、冷静に話し始めた。


「私は里長から許可を得て祭壇を調べ、結界の真実を知ったわ」


持ち帰った古代書の知識を基に、里人たちの信仰の根幹を崩しにかかる。


「あの結界は、古代においては古き森の原生魔力を制御し、里とは全く別の場所に送って利用するために機能していた。何年もの時を経て祭壇の術式が劣化し、今やその結界は、この森の原生魔力――神獣の力を、ただ現代の魔力に転換するだけの無意味なものと化していたの」


里人たちは動揺した。『神獣』の力を利用するための施設を守っていただけだったという事実は、彼らの誇りを大いに揺さぶった。


「だから結界が壊れても全く何も影響はないわ。むしろ本来の神獣の力が森に戻ってきたと考えてもよいのではないかしら? それを取り戻したのは、あなた達の里長であるシスティア様よ」


アリアは里人たちを見渡す。


「負傷者は治った。そして、里長が破壊したのは、神獣の力をこの里のためではなく自分達のためだけに利用せんとした古代の人間の欲望よ」


アリアの碧眼には、一切の情け容赦がなかった。

原生魔力が神獣の力と確定しているわけではなかったが、今この場ではそんなことをおくびにも出さない。


「あなた達が、まだ里長を糾弾する理由はあるかしら?」


昨日のアリアの魔法とシルヴァの瞬間的な獣化、そして現在の圧倒的な治癒魔法を目の当たりにした保守派の里人たちの中には、アリアという規格外の存在とこれ以上険悪になるのを避けたいという思惑が生まれていた。

彼らの糾弾の理由は消滅し、勢いは急速に衰え、騒動は鎮静化へと向かった。

騒動が収束した後、里長システィアは里人たちの前に静かに立つ。


「皆、聞いてくれ」


彼女は里長としての威厳を保ちながら、深々と頭を下げた。


「今回の混乱と騒動を招いた責任は、確かに里長である私の責任だ。故に私は、今をもって里長を降りる」


システィアは里人たちの中から最も信頼できる側近であるカレナを呼び寄せた。


「カレナ。お前は里の真の姿と外の世界を知る数少ない者だ。里の未来を、お前に託す」

「そんな! 急に言われても!」

「大丈夫だ、お前なら。頼んだ」

「……はぁい」


システィアの有無を言わさぬ瞳の圧力に不満気に返事をし、「絶対ついて行きたいだけでしょ」と呟いたのをアリアとシルヴァは耳にする。

 

そしてシスティアは、アリアとシルヴァの方を振り返り、深く感謝の意を込めて言った。


「アリア様、シルヴァ様。あなた方の知恵と力のおかげで、この里は真実を知り、新たに進み始めることが出来る。極光の聖女と牙に感謝を」

「気にしないで。私もあなた達の聖域に入れて貰えて色々知れたし、お互い様よ」


里人の手前、お互い距離を感じるやり取りではある。

しかし、システィアの思惑はこの先にあった。


「里長という立場を退いた今、私がここに居続けるのもカレナもやり辛いだろう。私もルミナスや神獣に興味がある。是非あなた方の旅に同行させていただきたい」


こうしてシスティアは後腐れなく里を出る理由を宣言し、アリアとシルヴァは新たな旅の同行者を得ることとなった。


アリアの後ろでシルヴァは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、アリアはそれに気付くことはなく、気付いたシスティアは、そんなシルヴァにウィンクを送るのだった。



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