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金色に瞳が染まる時、私の従者は世界を変える  作者: 727


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第29話 真実の探求者

里長であるシスティアの家で待機していたシルヴァは、システィアの側近である獣人の女性――カレナから、里の歴史や古き森の伝承について話を聞いていた。


獣族の里は古代より、神獣の意志が宿る聖域の守護を役割として担ってきた。里人たちの間では、他の種族が近づくことすら叶わぬその地に、自分たちだけは立つことができたため、これは神獣に選ばれた存在であることの証明だと語り継がれてきた。

この聖域を守り、代々祭壇を管理することこそが里の揺るぎない規範であり、里長システィアはその信仰の頂点に立つ。

故に、すでに知れ渡っている結界の解除と共にシスティアが連れてきた外部の人間であるアリアとシルヴァの受け入れは、保守的な里人にとって、里の存在意義を脅かす重大な背信行為と映っており、獣令なる里長命令が出ているとは言え、アリアとシルヴァに対する視線は厳しいもののようだ。


そんな状況で里の中を出歩くのは里人を刺激するだけだと思ったシルヴァはシスティアの家で静かに二人の帰りを待っていた。


しかし、そんな中でもシルヴァに興味を持った者達はシスティアの家を訪れてきた。

システィアとアリアが森に向かう時に伝えていったのか、神獣の加護とは何なのかと興味津々に聞いてきたもの達が大半だ。


シルヴァは何と答えるべきか悩んだが、力を解放すると瞳の色が変わること、身体に獣化の変化が起こるほどに絶大な力を発揮できることを素直に伝えた。


中には『獣憑き』と何が違うのかと直球を投げかけてくる者もいたが、ルミナスでの一件もあり『光属性』であることを堂々と答えることが出来た。


ただ、その問いに関してはシルヴァも思うところがあった。

まだ完全に試練を乗り越えたわけではない。

理性を失い、人の身に戻れなくなることで獣憑きへと堕ちる可能性はまだあるからだ。

それはつまり、この光属性も変化する可能性を示している。

人本来の属性は基本的には変わらない。

しかし、自分は理性をなくした獣憑きへと堕ちた時、闇属性へと変わるのだ。


それはアリアもヴィンセントも気遣ってか指摘しなかったが、シルヴァの中では人であり続けるための揺るがない確かな碇となっている。

理性を失わなければよいのだと。


ただ、今はまだシルヴァ一人ではそれは不可能だった。

少なくともアリアの存在がなければ、一度力を解放してしまえば戻ることは出来ない。


その謎はシルヴァが解き明かしたい目標の一つとなっていた。いつまでもアリアに甘えるわけにはいかない。自分がそばにいることで、アリアの未来は狭まっているかもしれないのだ。

アリアの力を借りずして力を制御する。

それが、今のシルヴァの目標だった。


そんなことは無関係に、きっとアリアは自分のそばにいてくれる。

しかし、そのために自分はアリアに求められる存在であり続けなければならない。でなければ対等ではない。

それはつまり、護衛、そして従者として、絶対の剣――牙でなくてはならない。

アリアに仇なすものは全て討ち倒す。


それが、アリアのそばにいることを許される唯一の理由だとシルヴァは思っているのだった。


アリアに伝えた四半日の制限時間が迫り、そわそわし始めたその時、里の入口から激しいざわめきと怒声が響き渡った。


「何事だ?」


シルヴァが立ち上がると、カレナが顔色を変えた。


「まさか、結界が破られたことに怒った里人たちが……」


二人が里の入口に向かうと、黒い外套に身を纏った三人の男たちが、幻影魔法を突破して里に入り込んでいるのが見えた。彼らの顔は深くフードに隠され、里人たちはその異様な雰囲気に警戒を露わにする。


「何用だ! 我が里は許可のない外部の人間を受け入れることはない!」


門番なのか、武器を持った里人の一人が前に出て詰め寄るが、フードの男の一人が素早い動作でその里人を組み伏せ、地面に押さえつけた。騒ぎは一気に拡大する。

シルヴァは事態を収拾しようと、神鋼の中剣に手をかけながら前へ出た。


シルヴァの姿を一目見た襲撃者たちは、戦闘態勢を解き、中心にいたリーダーらしき男がゆっくりとシルヴァに歩み寄った。


「共に行こう、我らの希望の獣憑き(ライカンスロープ)よ」

「……は?」


唐突な誘いにシルヴァも剣を取ろうとしていた手を止め、怪訝な表情になる。

男はそんなシルヴァにお構いなしに低い声で話し始めた。


「お前を迫害し、その力を恐れる世界を壊してやろう。こんなくだらない世界には嫌気がさすだろう? お前がいれば、我らが願いは一歩また実現へと近づく」


男は外套の下から手を差し伸べた。それは、シルヴァがかつて心に抱いていた『世界への絶望』に、直接触れるような誘いだった。

しかし、シルヴァは静かに首を振った。


「その手を取ることはできない」


その瞳は希望に満ち、活き活きと輝いていた。そこにはアリアという揺るぎない居場所を見つけた者の確信があった。


「いっときの感情に流されるな、大局を見ろ。お前の主はいつまでもお前のそばにいるわけではない」


男はなおも説得を試みるが、その言葉は今のシルヴァには全く届かない。アリアと出会う前であれば、その手を取っていたかもしれないが、今は違う。


「リアはハイエルフで長命だ。いつまでもそばにいられないのは俺の方だ」


シルヴァは純粋に男の言葉に反論した。

しかし、その反論は男にとって予想外だったのか、しばしの空白が訪れる。


「……そういうことではないのだが、なるほど、お前はバカなのだな」

「な!?」


男はシルヴァの瞳に映る純粋な光を見て、説得を諦めた。


「残念だ。では、お前のような危険因子は、ここで死んでもらう」


リーダーはそう言い放つと、組み伏せていた別の男が里人の喉元に剣を突き付けた。


「ぐ……人質か」


善意の第三者を盾に取られてはシルヴァは身動きが取れない。

人質に取られた里人は、恐怖を押し殺し『里長の大切な客人』を守るべく叫んだ。


「俺のことは気にせず戦ってくれ! 貴様らなんかに、誇り高き神獣に選ばれし我らの里を好きにさせないぞ!」


里人は突きつけられた剣を気にも留めずに体を捩り、組み伏せていた男の一人の顔を渾身の力で殴りつけた。その抵抗に激昂した襲撃者は、容赦なくその里人を斬り捨てる。

血が飛び散り、里は静寂に包まれた。


「貴様ら……!」


その光景を目の当たりにしたシルヴァは怒りに剣を抜く。

唐突な訪問者は襲撃者へと変わり、戦闘が始まった。


周りで見ていた他の獣族の戦士達も、仲間がやられて黙っているわけにはいかない。

シルヴァが剣を抜くと同時に数人が飛びかかっていくが、身体能力に長けた獣族の攻撃をいとも容易く躱して、一撃で地に伏していく。


「ここで無駄に命を散らす必要はない。いずれ来る破滅の時に、その断末魔のオーケストラを奏でるべきだ」


その言葉の通り、男達の一撃で倒れていった者達は血を流しているものの命までは取られていないようだった。


「だが、お前は違う。共に来ないのであれば、邪魔にしかならん。人質を取れば容易いと思ったが、やはり獣は獣、じっとはしていられないらしい。使い物にならん」


男達は息を乱すことなく、獣族の連携の取れた攻撃を全て受け切り、戦闘不能に陥らせる。

強い。男達はシルヴァにすらそう思わせるだけの力を見せつける。


「だが――」


負ける気はない。


シルヴァは手加減なく踏み出しリーダー格の男に斬りかかるが、正面からの斬撃はいとも簡単に止められ、同時に両サイドからの挟撃が来る。


今までの獣族に対する攻撃とは全く異なる、殺意が乗った攻撃だ。


シルヴァの持つ紫黒に煌めく神鋼の剣と襲撃者の漆黒の得物が交錯するたび、火花が夕闇を裂いた。シルヴァは力が発現せぬよう意識を集中しながらも、人間とは思えぬ速度と膂力で戦う。しかし、襲撃者たちの動きは異様なほどに連携が取れており、リーダー格の男は常にシルヴァの攻撃を見切っていた。一瞬の隙を突き、リーダーの剣がシルヴァの胸元をかすめる。


それを何とか避けながら右側に迫る男の懐に入って剣の柄で殴り飛ばし、その勢いのまま回し蹴りをリーダー格の男に放つ。

変則的な攻撃だったはずがそれも見切られ避けられる。

別の男が追撃とばかりに連続で斬撃を繰り出すが、シルヴァもその連撃を防ぎ切り、最後の一撃を弾き返した。


「身体能力も申し分ない。勿体無い。勿体無いぞ、獣憑き(ライカンスロープ)よ。その力、我らと共に使おうぞ」


シルヴァは力を解放せずとも、常人離れした身体能力を有している。

神獣の加護の恩恵なのか、人でありながら、里の獣族よりもその力は圧倒的に秀でていた。


にも関わらずシルヴァの攻撃は届かない。


「貴様らは何者なんだ」


顔には出さないが、シルヴァは僅かに焦りを覚えていた。

力を解放しないままでは恐らく勝てないと、そう感じていた。


「我らに興味を持ったか。いいだろう、距離を縮めるにはまずは自らの開示が必要だ。我らは真実の探求者(アポカリプス)。我らと来れば、お前にこの世界の真実を見せてやる」


「真実……だと?」


シルヴァの反応に、男は光明を見出したのか、剣を下げた。


「あぁそうだ。お前は思わなかったか? 何故自分だけがこんな目に遭わなければならないのか、何故人々が享受している当たり前の幸せを自分は得られないのか、何故自分は愛されないのか、何故世界はこうも理不尽なのかと」


それはシルヴァも過去に感じていたことだ。

今では加護の力と思うことができているが、当時は何故自分はこんな呪われた力を持っているのかと思い悩んだ。


「その答えは、この世界のすべてが『偽り』で塗り固められているからだ。神ルミナスが敷いた秩序とは、お前のような存在を抑圧するための、歪んだ檻にすぎない。我らが神イグニールの教えこそが、すべてを破壊し、真の平等を世界にもたらす」


リーダー格の男は、まるで預言者のように腕を広げた。


「お前の力は、その偽りの秩序を破るためにある! お前の心にあるはずの憎悪と絶望こそ、最も純粋で、最も尊い感情だ。それを解放せよ!」


男の言葉は、かつてシルヴァの心を蝕んだ毒そのものだった。しかし、今のシルヴァには、その毒を打ち消す光がある。


「俺は、憎悪や絶望のために剣を振らない」


シルヴァは剣を構え直した。


「俺の剣は、俺の主のために振るう。この世界が偽りだろうが理不尽だろうが関係ない。俺に居場所をくれた、リアのために全てを斬り捨てる」


その迷いのない、曇りのない瞳に、リーダー格の男は初めて明確な苛立ちを滲ませた。


「……なるほど。やはり、お前の純粋すぎる光が邪魔をするか」


男は小さくため息をつき、フードの奥の顔を歪めた。


「我らが神にも届きかねない真の獣憑きであるお前が、自らの闇を否定し、矮小なハイエルフの従者という立場に甘んじている。これでは目的が果たせない」


男は剣を握りしめながら、フードの奥から冷たい殺意を放つ。


「お前の目から光をなくすことが優先事項のようだ」


リーダー格の男がそう言った直後、里の入口付近の空気が一瞬揺らぎ、二人の人物が里に入ってきた。

アリアとシスティアが戻ってきたのだ。


リーダー格の男は、その機を逃さなかった。一瞬で判断し、シルヴァではなく、里に入ったばかりのアリアの命を刈り取るべく、凄まじい速度でその場を飛び出した。


「リア!」


シルヴァは男の狙いがアリアに切り替わったことを悟り、反射的に叫ぶ。

彼の瞳は金色に変わりかけ、獣化の力が全身に溢れ出すが、間に合わない。

リーダー格の男の漆黒の刃は、既にアリアの心臓目掛けて突き出されていた。


アリアは状況把握が出来ておらず、回避態勢も取れていない。

しかし、シルヴァの体はギリギリ届く。


『主を護る』という唯一絶対の行動原理が力を加速させた。彼は傷を負うことを恐れず、アリアの前に庇うように身体を捻って滑り込ませる。


鈍い音が、静寂に包まれた里に響き渡った。


「が、は……っ」


漆黒の刃は、シルヴァの胸部に深々と突き刺さっていた。それは誰から見ても、致命的な一撃だった。


「シルヴァ!!!」


血を吐き、膝から崩れ落ちるシルヴァ。

その目の前で、シルヴァが刺されたということだけを理解して叫ぶアリア。

同時にシスティアが飛び出しリーダー格の男に曲刃を振るう。


それを避けると、リーダー格の男は苛立たしげに呟いた。


「クソッ……お前の命を奪うのは最終手段だったというのに。まぁいい、ある意味目的は達成した、退くぞ」


システィアの追撃を弾きながら、男達は里の外へと消えていく。


「シルヴァ! しっかりしなさい! シルヴァ!!」


必死に叫ぶアリアの声を耳にしながら、シルヴァの視界は闇に染まり、その意識は沈んでいった。





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