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金色に瞳が染まる時、私の従者は世界を変える  作者: 727


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第25話 変態的な追跡者

神聖国ルミナスから東へ、馬車を乗り継ぐこと十数日。

山脈を越えた先に広がる景色は、アリアとシルヴァが知るものとは全く違っていた。そこは、多種多様な種族が欲望と活気を剥き出しにして行き交う『東方自由都市連合(イースト・ユニオン)』である。


「……随分と、騒がしい場所ね。下品な奴らも多そうだわ」


馬車の窓から外を眺め、アリアは露骨に嫌悪感を滲ませる。

半裸で歩く男達や露出の多い服を纏う女達、真っ昼間から酒によって街の至るところでちちくり合うその奔放な空気を纏う街並みとアリアの清楚な姿は、鋭く対立するかのように相容れないようだ。


「欲望に忠実な人間らしさを感じる分、ルミナス――いや、イルミナの変な空気よりはマシなんじゃないか……?」


シルヴァの言葉は自信がないように尻すぼみになる。

アリアは「イルミナよりはね」と鼻を鳴らした。


「ここはイースト・ユニオンで一番の歓楽街ルクシリアです。イースト・ユニオンに初めて来た人にはこの街の印象がついてしまいますよね」


御者が二人を気遣うように、そんな補足をした。

二人はそのままイースト・ユニオンの情報が集う街と言われる『オルト』へ向かう。

目的地は地図にない場所であり、オルトはその場所にも位置的には近いが、現在の地図では目的地までの道など示されておらず、現地の地理に精通した案内人が不可欠だった。


情報都市『オルト』に到着した二人は、街の喧騒の中を歩く。

街並みはルクシリアよりかは少し落ち着いていたが、活気は変わらない。


シルヴァは常に背後から送られる熱烈な視線と、濃密な匂いを感知していた。それは獲物に対する執着というより、まるで愛しいものを追いかけるような、異様な熱を帯びた興奮の気配だった。


「……リア」

「分かっているわ。この、ねっとりとした視線……まるで獲物を舐め回しているようね」


アリアが顎で示したのは、大通りから外れた薄暗い袋小路。

二人は自然な動作で路地へと入り込み、待ち構えた。


すると軽やかな足音が壁を蹴り、頭上から迫る。

シルヴァが即座に身構え、アリアが拘束魔法の術式を展開するが、影は驚異的な身のこなしで空中で身を捻り、難なく回避した。その動きには、一切の無駄がない。


「……やるわね」


アリアが魔力を収め、その影を見つめる。

そこに立っていたのは、しなやかな肢体を持つ猫系の獣人の女性だった。少女とは呼べない、アリアよりも年上の雰囲気を漂わせ、大人の色気を纏っている。


彼女の髪は波打つショートボブで、美しい栗色に光り、おでこを見せたスタイルは妖艶な美しさを強調している。

服装は肌の露出が多く、体の線が強調されているが斥候として見れば機能的な服装だ。その顔には、相手の反応を楽しむような、挑発的で甘い笑みが浮かんでいた。


女性は一瞬の攻防を制したことに満足げに微笑むと、シルヴァへとゆったりとした動きで歩み寄った。

シルヴァは警戒しつつも敵意を感じない女性をどう処せばいいかわかりかねている。


「誘ってくれてありがとう」

「!?」


女性はアリア達がこの路地に呼び込むために入り込んだことを理解していた。

猫の耳と尻尾を優雅に揺らし、シルヴァの胸元に顔を近づけ、深く息を吸い込んだ。その動作は、まるで禁断の快楽を求めるかのようだった。


「すぅ〜はぁ〜…あぁたまんないっ。もう、とろけちゃう」


その声は甘く、聞き手を誘うように響く。女性は瞳を閉じ、恍惚とした表情を浮かべた。


「あぁ〜ん、くるぅ〜上がるわぁ! この濃密な生命の匂い…アタシの魂を直撃するわね」


シルヴァは、そのあまりに変態的な振る舞いと、熱っぽい視線にタジタジとなり、思わず一歩後ずさった。


「俺、臭いのか……?」


シルヴァは自分の身体をクンクンと嗅ぐと、助けを求めるようにアリアを見つめる。

アリアはそのシルヴァに向けて首を横に振る。


「ふふっ。臭いだなんてご冗談を。お兄さんの匂い、たまらなく素敵よ。あなたの中には、アタシを蕩けさせる獣が眠っているのがわかるわ」


アリアはあまりにも露骨な誘惑に眉間に深い皺を刻む。


「ちょっと。私の従者に、淫らな真似はやめてもらえるかしら?」


流石に我慢できずに威圧を込めて魔力を解放するが、女性は怯むどころか、その魔力に瞳を潤ませた。


「まぁ、素晴らしい。その魔力、まるで神様からの贈り物ね。私が出会ってきた誰よりもずっと強烈だわ」

「……ふん、当然よ。私は極光の聖女アリア・ヴィルミリアだもの」


アリアは魔力を賞賛されて気をよくしたのか、僅かに笑みを浮かべながら傲慢さを見せる。

しかし、それが女性の執着をより強くすることになった。


「あぁやっぱり。もしやと思って追いかけてきて正解ね」

「……私達を知ってるの?」

「ええ、知っているわ、極光の聖女アリアとその牙シルヴァ。 ねぇ、お願い。アタシをあなた達の仲間にしてくれない?」


女性の口調は穏やかで丁寧だが、その目には強い執着心が宿っている。


「仲間……?」

「えぇ、仲間」


二人は突然の申し出に理解が追いつかない。

敵意がないとは言え、得体が知れない変態すぎて流石に「はい、よろしく」と言うわけにはいかない。


「説明してくれるかしら? あなたが私達に固執する理由を」


アリアの目に浮かぶ警戒の色は消えない。


「アタシ、強い人が大好きなの。イグニールからイルミナ――今はルミナスだっけ、ルミナスを救った聖女リアたんと神獣の加護持ちのヴァー君。聞いてるわぁ。イグニールに貫かれて戦線を離脱したリアたんは、愛しのヴァー君に口付けをして聖女の加護を与えてヴァー君は神獣化。リアたんを傷つけたイグニールを完膚なきまでに叩きのめした。あぁんもぅ何て素敵なの! そんな尊い二人のそばにいたいと思うことは当然のことだとアタシは思うの」

「リアたん……ヴァーくん……」


事実がところどころが歪んでいる。

しかし、気持ちよさそうに熱弁している女性からは二人への尊敬の念しか感じない。


アリアはその馴れ馴れしい呼び方にタジタジとなりながらも、その明らかな尊敬の眼差しと、シルヴァを狙っているわけではないということがわかり、わずかに気を許す。


「まあ……少し、いや、だいぶ事実は違うけど……その身体能力は捨て難いわ」

「リア!?」


アリアが選んだ方向性を悟り、シルヴァは焦る。


「シルヴァも見たでしょ。有能なのは間違い無いわ」

「あら、嬉しい! アタシの名前はシスティア・ルクソール。みんなはシスやシスティって呼ぶわ。この辺りじゃ一番有能な斥候と思って貰って構わないわよ、よろしくね、リアたん」

「まだ仲間にするとは――」

「んーん、もうリアたんからは仲間にするっていうあま〜い匂いがし・て・る」

「く……」


洞察力も間違いない。

言い当てられてアリアは反論できず、シルヴァは諦めたように俯いた。


「それで、リアたんとヴァー君は、このオルトに何を探しているのかしら?」

「……はぁ。地図に載っていない場所を探しているのよ」


アリアは諦めたようにシスティアに古代地図を見せる。

システィアはそれを一瞥し、すぐに目的地が『古き森』だと察した。


「ああ、ここ。アタシの故郷も近いけど、里の者でも立ち入らない神聖な場所とされているわ。でも、アタシなら案内できるわよ」


システィアは自信満々に胸を張った。

アリアは思わぬ拾い物だったと胸を弾ませる。


「ちょうどいいわ。報酬は?」

「仲間からお金なんて貰わない。でしょう?」


システィアは即答し、再びシルヴァへ体をすり寄せた。


「道中、ヴァー君の匂いを嗅げるだけでま・ん・ぞ・く……ん〜いい匂いっ」

「……」


シルヴァは言葉が出ない。

アリアはシスティアの妖しげな視線に眉をひそめたが、彼女の有能さと、目的地が彼女なら案内できるという場所であることを鑑み、受け入れるしかなかった。


「まあいいわ。あなたの変態的な要求、受け入れるわ。ただし、シルヴァにそれ以上の接触は許さない」

「あぁん、いいわぁ。それよそれ。誰にも渡さないっていう匂いも、たまらないっ」


システィアは満足げに尻尾を揺らし、シルヴァとアリアをねっとりと見つめた。


「ったく……調子が狂うわ」


こうして、東の混沌とした街で、妖艶で変態的な新たな仲間が加わった。



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