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金色に瞳が染まる時、私の従者は世界を変える  作者: 727


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第24話 凱旋、そして東へ

神聖国ルミナスでの激闘を終えたアリアとシルヴァは、アリアの腹部の傷が完治していないこともあり、乗り合い馬車に揺られながら、ゆっくりと辺境の街ヴァリエへの帰途についていた。

道中の街や村に立ち寄るたび、二人は奇妙な熱気に包まれる。


「おい、あれが噂の『極光の聖女』と『極光の牙』じゃないか?」

「ルミナスを救った英雄がこんなところに!」


教皇ヴィンセントが約束通り、いや、約束以上に大々的に宣伝したおかげで、二人の二つ名はルミナスの隅々にまで轟き始めていたのだ。


アリアは「騒がしいわね」と不満げにフードを目深に被るが、その口元が少しだけ緩んでいるのをシルヴァは見逃さなかった。

シルヴァ自身、アリア以外に認められてもと思ってはいたものの、この光景は何度見ても素直に嬉しいものであり、照れ臭さを感じていた。


数日後、懐かしきヴァリエの街門をくぐると、そこはすでに祭りのような騒ぎだった。


「よく帰ってきた! 極光!」

「俺たちの街の英雄が帰ってきたぞ!」


顔なじみの住民たちが手を振り、歓声を上げる。


「あなたをバカにした奴らの顔が見てみたいものね」


その声を耳にしながら、アリアは口元を歪める。

普通にしていれば可愛いものの、その端正な顔に冷酷な笑みを浮かべたアリアにシルヴァは苦笑した。


冒険者ギルドに滞在記録と挨拶を兼ねて顔を出すと、ギルドマスターのボイドが満面の笑みで出迎えた。


「よく戻ったな、二人とも。まさか国を救って帰ってくるとは思わなかったぞ」


元『秩序の守護者』であるボイドは、感慨深げにシルヴァの肩を叩いた。その眼差しは、以前から変わらず、一人の戦士への敬意に満ちていた。


「ギルマスがあの時言った『誰もが認める力』、これでいいかしら?」


アリア達が神鋼級に認定された日、条件付きのような認定のされ方をアリアは不満に思っていたのか、あの日ボイドがアリア達に向けた言葉をそのまま投げ返す。

その様子にボイドは苦笑する。


「十分過ぎる。あっぱれだ」

「そ、ならよかったわ。行くわよ、シルヴァ」

「あ、あぁ。すまないなギルマス、面倒くさい主で」


シルヴァはアリアの後を追いながらボイドに向かって詫びたが、その言葉をアリアが聞き逃すわけもなく、


「なによ面倒くさいって!」


と、シルヴァの肩を小突くのであった。

そんな調子でヴァリエの熱狂的な歓迎の波を抜け、二人は慣れ親しんだ屋敷への道を辿る。

街の喧騒から離れ、ようやく懐かしの屋敷に着くと、二人は重い扉を押し開けた。


『おかえりなさいませ、シルヴァ様、アリア様』


屋敷の扉を開けると、蒼い髪を揺らしたメイド服の少女が、抑揚のない声でありながらも弾丸のように飛び出してきた。

この屋敷の守護霊であり、最強のメイド、マリエラだ。


「マリー、ただいま。留守の間、問題はなかった?」

『はい。掃除洗濯、警備に害虫駆除、全て完璧です。お風呂とお食事もすぐに準備いたします』

「残光とはうまくやっているのか?」

『私はそのつもりでいます。よく働いてくれていますよ』


マリエラは甲斐甲斐しく二人の荷物を受け取ると、屋敷の奥へと案内した。

そこには留守を預かっていた“残光”のメンバー、ゼノス、ルナ、クロウの姿もあった。


「お疲れ様だな、大将。噂は聞いているぜ」


ゼノスの言葉に寡黙なクロウが珍しく微笑み、ルナも誇らしげに頷く。


「ゼノス達も息災で何よりだ。報告は何かあるか?」

「報告するほどのことでもねーな。何組か賊が来たが、俺達の出る間もなくマリエラ嬢が瞬殺。俺達はそれを関所に持っていくくらいの仕事しかしてねぇよ」


マリエラと“残光”の活躍はこの約一ヶ月でヴァリエに広まったようで、最近では賊も来ないとのことだ。

彼らの実力が広まれば広まるほど、自ずと極光の株も上がっていく。ありがたい話である。


数日後、アリアの傷も癒え、屋敷での穏やかな日常が戻ってきた頃。

庭では凄まじい風切り音が響いていた。


『はっ!』


マリエラが可憐な掛け声とともに、ゼノス、ルナ、クロウの三人を同時に相手取っていた。

ゼノスの大剣を素手で受け流し、クロウのナイフを最小限の動きで回避し、ルナの魔法を片手で霧散させる。


『甘いですよ、そこ』


目にも止まらぬ速さの連撃が三人を襲い、あっという間に『残光』の精鋭たちは地面に転がされた。


「うぅ……相変わらず強すぎる……」

「マリエラさん、本当に守護霊なんですか……?」


息も絶え絶えの三人を前に、マリエラは涼しい顔でスカートの埃を払った。服含めて霊体のため、埃などついていないはずなのだが、生前の癖や習慣は中々抜けないようだ。


『皆さんまだまだです。主をお守りするには、我々も神鋼級レベルになる必要があります。もっと精進が必要ですよ?』


アリアはテラスで優雅にお茶を飲みながら、その様子を眺めていた。


「守護霊って、成長するのね」


蒼髪の格闘メイドの実力は、相変わらず底が知れなかった。

この屋敷で出会った時より、確実に格闘術の練度が上がっているように見え、アリアは守護霊も努力により格を上げる可能性があることを心にメモをした。


一方で、シルヴァもまた鍛錬に励んでいたが、そこには小さな異変が生じていた。


「……ッ!」


シルヴァが剣を振るった瞬間、その剣圧だけで地面が大きく抉れ、訓練場の岩が粉々に砕け散ったのだ。

ただの素振りのはずが、まるで巨大な獣の一撃のような威力を生んでしまった。


「……力が」


シルヴァは自分の手を見つめ、眉をひそめる。

イグニール戦での真獣化以降、力を発動していないのに発動した時のように過剰に溢れ出すことがあった。

『神獣の試練』は、まだ終わっていないのだ。


その夜。

アリアは自室で、リッチの遺した古代書を読み漁っていた。

机の端には、旅の間も魔力を注ぎ続けていたあの丸石が置かれている。


「……あら?」


アリアがいつものように丸石に魔力を流し込むと、今まで滑らかだった石の表面に、ピキリと小さな亀裂が入った。


「割れたのか?」


アリアの声と石の音を拾ったシルヴァが興味深そうに覗き込む。


「いえ、まだ時間がかかりそうだけど、そろそろ魔力を溜め込むのも限界が近いということかしら」


アリアは満足げに頷くと、再び古代書に視線を落とした。

そして、あるページでその手が止まる。


それは、古代魔法王国時代のエオス大陸を描いた地図だった。

アリアは現在の地図と比較し、ある一点に目を向ける。


「ここ……現在の地図ではただの『未開の樹海』になっているけれど、古代地図には確かに都市のマークがある」


そこは東の大陸にある自由都市連合のさらに奥地。

古代文字で記された注釈には、『星を読み、獣と共に生きる者たちの聖域』と書かれている。


「獣と共に生きる者……」


アリアの脳裏に、シルヴァの「神獣の試練」と、ルミナスで得た「獣憑きは神獣の加護持ち」という情報が引っ掛かる。


もし、ここが古代から続く獣人たちの隠れ里だとしたら。

そこにはシルヴァの力を制御するためのヒントがあるかもしれない。

それに、古代魔法王国の遺跡が手付かずで残っている可能性も高い。


「決まりね」


アリアは古代書をバタンと閉じ、不敵な笑みを浮かべた。

翌朝、アリアはシルヴァとマリエラ、そして『残光』のメンバーを集め、高らかに宣言した。


「休暇は終わり。私達はまた少し出てくるわ」

「リア、次はどこへ行くんだ?」


シルヴァが尋ねる。

アリアは東の空を指差した。


「東よ。情報と欲望が行き交う『東の連合国』。そこに、あなたの試練を終わらせる鍵と、私の知的好奇心を満たすお宝が眠っているわ」


試練を終わらせるというのは確定事項ではない。

しかし、何かがある。

アリアにはその確信があった。

早々に荷物をまとめると、マリエラと残光に屋敷を託す。


その背を見送りながら、ゼノス達はマリエラを気遣うように声を掛けた。


「マリエラ嬢、君の主人達は忙しいな。あまり、落ち込むなよ」


前回、イルミナ改めルミナスに向かった際に、その瞳に涙を溜めていた従順なメイドを心配したわけだが、その心配は無用のように、マリエラは笑みを浮かべている。


『ご主人様達はこれでこそです。ちゃんと帰って来てくださると証明してくださいましたし、ですから私は今回は、笑顔でお見送りをすることが出来ました』

「マリエラさん、本当健気……」

「守りたいな、この笑顔は。あの二人め……泣かせたら承知しないぞ」


マリエラの横顔を見て、今度はルナが泣きそうになり、クロウは胸を手で押さえながら苦しそうな顔を見せ、アリアとシルヴァに早く帰って来いと呟く。


そんな会話がされていることなど露知らず。

アリア達は東の地へと歩を進める。


新たな目的地は定まった。

傲慢な聖女と忠実な牙――極光の次なる探求の旅が始まろうとしていた。



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