第17話 闇に繋がる看破の糸口
ヴィンセントとの密談を終え、宿に戻ったアリアとシルヴァは、すぐに戦闘準備に取り掛かった。
ヴィンセントは、教皇レオナルドとシャムロック枢機卿が『今夜、極光を暗殺する粛清部隊を差し向けた』ことを詳細に告げていた。
「シルヴァ、相手は教皇直属の暗殺者よ。暗殺者である以上、正面からの戦闘よりも、奇襲と確実な抹殺を目的とする。侵入経路は扉、窓、そして屋根裏の三方向」
アリアは、ヴィンセントから得た情報を元に、暗殺部隊の侵入経路と体制を予測した。
「宿に被害が出るのは申し訳ないな」
「仕方ないわ。この騒動は計画には必要。真実を明るみにして、その時に存分に賠償してあげたらいいのよ。それにこの部屋で最後まで戦うわけじゃない。侵入が発覚したら、すぐに窓から外に飛び出すわよ」
「分かった。索敵は任せろ」
シルヴァは窓辺に立ち、微かな空気の振動にも神経を集中させる。その眼光は鋭く、全身の毛が逆立つような集中力で周囲の情報を集めていた。
「お願い。私は結界を張るわ」
アリアは静かに魔力を練り上げた。
宿全体を包み込むように、アリアの魔力が張り巡らされる。それは透明な膜となって建物を覆い、外部からの侵入を感知する。
「これで、敵の動きと数は最低限予測できる。後はあなたの腕次第よ」
深夜。
「来たぞ。合計七人だ。動きは統一されている。相当な手練れだ」
シルヴァがそう言った直後、アリアの張った結界が、微かに「パチリ」と音を立てて震えた。
「入ってきたのは六人、うち三人は屋根裏。一人は外よ。部屋で戦うには多いわね。出るわよ」
「御意」
シルヴァはアリアを抱えると窓から飛び降りる。
宿の入り口にいた暗殺者がそれを逃さんとばかりにナイフで狙い撃つが、シルヴァは難なく剣で弾いてそのまま斬り伏せる。
「追え!」
闇の中に響くたった一言。
アリアは一切の動揺を見せず、石畳の道に立つと、宿から飛び出してくる残りの部隊に目を向ける。
六つの統率された影が迫っていたが、アリアの一言によって、濃密な夜の闇が伸びた。
「闇影捕縛」
統率された動きが一瞬で止まる。
闇が彼らを拘束したのだ。
アリアが展開したのは、夜の闇を利用した闇属性魔法。
空間に充満する闇が、まるで無数の闇の糸や鎖となって暗殺者たちの四肢、胴、そして剣を握る腕を正確に拘束した。
「な、何だ!?」
「くそっ、体が動かない!」
闇の鎖は、彼らが魔力を込めて抵抗しようとするたびに、より強く締め付けられる。
その一瞬の静寂を打ち破ったのは、シルヴァの踏み込みの音だった。
「最高のお膳立てだ」
瞳の色は翠色のまま、高速で闇に拘束された暗殺者たちの間を縫う。彼が振るう剣のその一撃一撃が、訓練された暗殺者の急所を正確に仕留めていく。
「がっ……ぁ……」
それは、極限まで洗練された狩りだった。
僅かな喧騒のあと残されたのは、闇の鎖に拘束された暗殺者の死体と、ただ一人、シルヴァが首の筋を狙って気絶させた、指示を出していたリーダー格の男だけだった。
「ご苦労様、シルヴァ。完璧な連携だったわ」
アリアの顔には、勝利の安堵よりも、次の段階への集中が浮かんでいる。
「こいつから全てを吐かせるわ」
シルヴァが気絶したリーダー格の男を床に押さえつけると、アリアは懐からヴァリエの遺跡で見つけた古代魔道具を取り出した。それは精巧な紋様が刻まれた水晶の球体だ。
アリアは水晶球をリーダーの額に押し当て、起動させた。
「さあ、正直に答えなさい。あなたは何者で、誰の指示で私たちを暗殺しようとしたの?」
魔道具は、対象に自白を強要する魔法を流し込む。
苦痛に顔を歪ませたリーダーの口から、呻き声と共に真実が零れ落ちる。
「俺は……イルミナ聖騎士団……副団長ザビオ・ホーネット……極光の暗殺……シャムロック……枢機卿から……命令だ……そして、それは……教皇猊下の、直接の、御意思……」
その言葉が魔道具に記録されるのを確認すると、アリアは満足げに魔道具のスイッチを切った。
「よし、証拠確保。教皇直々の命令ってよりも驚きね、こいつ副団長なの? やばいわねこの国。でもこれで私たちは、彼の首に手をかける正当な理由を得たわ」
そしてアリアは、リーダーの装備品に目を移した。リーダーの腰から下げられた小さな装飾品が、アリアの目を引いた。
「これ……」
アリアはそれを手に取り、詳細な魔力解析を行う。
それは一見するとただの装飾品だが、その内部には極めて複雑な魔力回路が組み込まれていた。
アリアの知識をもってすら、その効果を読み解くことは難しかったが、装飾品から放たれる魔力波動は、聖光特区全域を覆う看破の魔法と酷似している。
「まさか……」
アリアの目が大きく見開かれた。
この看破の魔法が蔓延る国で、暗殺を行う粛清部隊が持つ装飾品。身を隠す必要がある者達が持つこの魔道具の意味は押して知るべしだ。
「シルヴァ……もしかしたら、この国は、教皇は、本当にクソ野郎かもしれないわ」
装飾品を証拠品として確保しつつ、ザビオを縛り上げる。
今この瞬間では解読は出来ないにしても、数時間もあれば読み解けるはず。
アリアの顔に、これまでの疑惑が確信に変わろうとする期待と喜びが交錯した。
「世界は騙せても、私達のことは騙せないって教えてあげるわ」
教皇の欺瞞の真実が、アリアの手の中で光を放ち始めていた。




