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金色に瞳が染まる時、私の従者は世界を変える  作者: 727


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第15話 高潔なる者

聖光特区の中心に位置する大神殿併設の大闘技場は、初日から尋常ではない熱気に包まれていた。

今日は二大大会の一つ、『神聖魔法大会』の開催日である。

観客席の白い石段は隙間なく埋まり、その中央にある舞台に視線が集中している。

アリアはその視線が集まる舞台に踏み出す前に、闘技場の入り口に佇み、深い呼吸を繰り返していた。

彼女に注がれる視線は、尊敬と期待だけではない。


「あれが神鋼級冒険者『極光』のアリア・ヴィルミリアだろ? 隣の獣憑きと組んでいるって噂の」

「そうだ。あんな穢れた者と組むとは、いくら神鋼級でも品格がない」


シルヴァが看破の魔法の支配下である特区内で、『神獣の加護持ち』と宣言した噂は、すでに人々の好奇と疑惑の渦となってアリア達に降り注いでいた。


「リア、大丈夫か? みんなお前のことを変な目で——」

「黙りなさい、シルヴァ」


アリアは静かにシルヴァを制した。


「彼らの視線も私たちの計画の一部。それに、この大会の趣旨は『どれだけ観客を魅了できるか』。彼らの疑惑は、私により注目させる最高の調味料だわ」


優勝すれば大司教へのアプローチが容易になるという事実だけでなく、聖光特区の支配的な価値観そのものを揺さぶる最高の機会だ。


「行ってくるわ。あなたのことを獣憑きなんて言う腐った観客の価値観を、私の魔法で完全に塗り替えてあげる。私とシルヴァにそんな態度を取ったこと、後悔させてやるわ」


不敵に笑うと、アリアは舞台へと足を踏み出した。

舞台の中央に進み出ると、闘技場のざわめきが一瞬で静寂に変わる。


彼女の金色の髪と青い瞳は、聖光特区の白い背景の中で、異質なほど輝いて見えた。


これまでの出場者も光属性魔法は使っていた。

ただ光属性魔法の難しさからか、どの参加者も手元で光を放つものばかりで広い闘技場の観客達はしらけ始めていた。

ただ、帰る者はいない。

それは何故かと言うと、観客が楽しみにしているのは、この神聖魔法大会の最後に披露される聖教会上層幹部による光属性魔法だかららしい。


そんな聖教会のための大会故に参加者も少ない。

それでも少し盛り上がったのがアリアの直前の参加者だった。

光属性の伝統的な治癒魔法を得意とする聖職者だったが、自分の周囲に光属性を展開し、他の参加者よりはその輝きが目に見えて美しかった。

おかげで、少しだけ舞台は温まった。


「ついてるわね」


アリアは観客席を見渡した。

彼女の瞳は、観客一人ひとりの心の壁を透視するかのように冷たく、鋭い。

深呼吸をすると、その顔に愛想良く笑顔を浮かべ、周囲に向かって慎重に宣言する。


「『神聖魔法大会』をご観覧の皆様、私の魔法を観客の皆様、そしてこの場所全体に捧げましょう。どうぞ、お楽しみください」


アリアはゆっくりと目を閉じる。

この場で唱える魔法はすでに決めていた。


一呼吸すると、アリアはゆっくりと詠唱を始める。

その声は神殿の聖歌のように厳かで、闘技場全体に響き渡る。通常、省略されるはずの長い詠唱は、儀式的な美しさを持っていた。


「遥かなる聖域、煌めく至高の輝きよ、その清廉なる愛は万象を赦し慈しまん。調え、浄め、舞い降りたまえ。その命を尊ぶことこそ最たらんことを――聖刻・志魂調浄(ホーリーブレス)


詠唱が完了した瞬間、アリアから放たれる一筋の光は空へと伸びる。空から舞い降りたのは、そよ風の中、美しく煌めく光の粒子。

粒子はまるで雪のように、穏やかで荘厳に、ゆっくりと、観客席の隅々、闘技場の大地の全て、そしてアリア自身の上に降り注いだ。


その光景は闘技場という場を忘れてしまうほどで、神々が降臨した儀式のようだった。

観客たちはその完璧なコントロールと魔法の範囲、そしてあまりに純粋な光の美しさに息を呑み、誰も声を上げることができない。光を浴びた彼らは、身体の奥底から清められるような感覚を覚え、ただ魅了された。

そして、その光が消失すると同時、闘技場は大歓声に包まれた。


大歓声の中、観客に一礼をして戻ってくるアリアをシルヴァは優しく迎える。


「流石だ。空気が一変したな」

「腐ったグールに光属性魔法は効果覿面ってことよ」

「ふはっ。あんな綺麗な魔法使っておいて、なんつー言い方するんだよ」


二人の笑顔は観客席からは美男美女が仲睦まじくしているようにしか見えない。

シルヴァへの印象はまた一段、改善されていた。


言うまでもなく、大会はアリアの圧倒的な勝利で幕を閉じた。アリア以降の参加者は全て出場を辞退し、満場一致でアリアの優勝となった。


彼女の魔法はこれまでのイルミナにおける『神聖魔法』の常識を遥かに超えた芸術的な域に達しており、最後に予定されていた聖教会の枢機卿の魔法のお披露目すらもなくなってしまうほどだ。


観客達は彼女の魔法によって、理屈を超えた「美」に跪かされ、『極光の聖女』という、アリア個人を示す二つ名がここから囁かれるようになる。


翌日、大闘技場では『戦技大会』が開催された。

神聖魔法大会の優勝者であるアリア達は、聖教会幹部席の近くに設けられたVIP席に招かれていた。


「ふふ、昨日のおかげで、最高の席ね」

「ああ。でも、あんまり居心地は良くないな」


シルヴァは、聖教会幹部席周囲を固める聖騎士たちに警戒の視線を送っていた。

VIP席ということもあり、アリアに手を出すことはないだろうが、自分が大会で戦っている間、アリアから離れることに不安を覚える。


「大丈夫でしょ。流石にこんな公の場所で、大会優勝者をどうこうするバカなんていないわ。いたとしても、何とかしてくれるんでしょ?」

「当然だ」

「なら安心してここで見てるわ、頑張ってね」


シルヴァはその規格外の身体能力と磨き上げた戦闘技術で順当に勝ち進んだ。

そして、迎えた決勝戦。

対戦相手は、イルミナ聖教会の守護たる聖騎士隊長の一人だった。

彼の周りには、獣憑きを忌避する観客からの熱狂的な声援が集中していた。


「あんな穢れた獣憑きに負けるな!」

「聖騎士隊長の威厳を見せてやれ!」


闘技場全体に、シルヴァへの罵声と聖騎士隊長への声援が渦巻く。


「やっぱり腐ったものはそう簡単に元には戻らない、か」


アリアは呆れた表情でその声の主達を席から眺めていた。

そして試合開始の鐘が鳴る直前、異変は起きた。

警護にあたっていた別の聖騎士隊の隊長が、突如としてアリアに襲いかかり、首筋に剣を向ける。


「あぁ……いたわ、バカが」


アリアはこの先の展開に思考を巡らす。

シルヴァがこの場を制圧するのは決定事項だ。

場合によってはシルヴァが大会失格になり、アリアの優勝もなかったことにされるだろう。

自分達の計画がこんなバカに邪魔されると思うと、アリアの目は鋭くなるばかりだった。


聖騎士はアリアの首に剣を突きつけ、闘技場に立つシルヴァに向かって大声で叫んだ。


「この者の命が惜しければ、この場で降参し、二度とイルミナに近づくな! 獣憑き!」


闘技場全体が騒然となる。

卑劣な人質作戦に、観客は二つに割れた。


「汚いぞ!」

「卑怯だ!」

「聖女様になんてことを!」


と怒鳴る声。


「そうだ!」

「獣憑きなど勝たせてはならない!」

「獣憑きを従える魔女だ! そんな女は聖女ではない!」


と卑劣な手段を肯定する声。


その中で、シルヴァは静止した。彼の翠眼は、剣を突きつけられたアリアの側に立つ騎士を、まるで獲物を見つめるかのように凝視していた。


「……させるかよ」


その声は静かだったが、闘技場全体に響き渡るほどの明確な殺意を含んでいた。


シルヴァの瞳の色が、次の瞬間、鮮やかな金色へと変化した。

その色の変化と同時に、彼の身体から圧倒的なオーラが放出される。

それは猛々しい神獣のオーラだと言われれば、そうだと信じられかねないほどの圧力だった。


観客はその圧力に恐怖し、一瞬で声を失う。


シルヴァは闘技場の土を蹴った。

その動きは「瞬き」という言葉すら陳腐にするほどの超高速。


彼は闘技場からVIP席へと跳躍し、人質を取っていた聖騎士隊長の背後に、一瞬で回り込んだ。

聖騎士隊長が驚愕に目を見開く暇すら与えず、シルヴァは彼の剣を持つ腕を捻じ曲げ、その巨体を地面に叩きつけ、組み伏せた。


全てが一瞬の出来事。アリアの首元から剣が離れ、人質作戦はあっという間に破綻した。

組み伏せた聖騎士の上で、シルヴァの荒い息は続く。

彼の金色の瞳は、まだ猛々しく輝いていた。


そして、観客の視線が集中する中、シルヴァは懐から小さなガラス瓶を取り出した。それは、アリアが精製した特別な聖水だ。


シルヴァは組み伏せた隊長を片手で抑えつけたまま、もう片方の手だけで、聖水の蓋をねじ開けた。

ごくり、と一気にそれを飲み干す。


聖水が彼の喉を通った瞬間、シルヴァの全身から放たれていた猛々しい金色のオーラが、少しずつ穏やかに鎮まっていった。


闘技場の観客達は「神獣の加護持ち」という言葉の信憑性がより高まったことを感じざるを得ず、ざわめきは鳴り止まない。


「その聖騎士隊長を捕え、連れて行きなさい」


そんな闘技場の空気を鎮めたのは、上等な身なりをした壮年の男の言葉だった。

その言葉に、そばで控えていた別の聖騎士達はシルヴァに寄る。

シルヴァも聖騎士達の邪魔をすることなく、聖騎士隊長を差し出した。

聖騎士隊長は色々と叫いていだが、その場から引き摺られるように連行された。


「信徒が大変失礼なことを。お詫びする」


今まで二人が接してきた空気感とは全く異なるものを纏ったその男は二人に頭を下げる。

シルヴァを支えるように立っていたアリアは鋭い目を向ける。


「聖王国の聖教会も落ちたものね。他者を侵害しようとすることがこの光の国の教義なのかしら」

「……この国も教義も、一枚岩ではないのだよ」


頭を上げた男の目は、信念を持つ男の目をしていた。


「枢機卿猊下、大会を再開します。お席にお戻りください」

「それでは。残り一戦、楽しみにしているよ。極光のシルヴァ」


枢機卿の男はシルヴァに向かって激励の一言を掛けると、席に戻り始める。


「枢機卿……ですって?」


前日の神聖魔法大会で最後のお披露目を予定していた枢機卿とは別の男だったこともあって、目の前の男が枢機卿だとは思わなかった。


アリアのその疑問の声に、男は再度アリア達を振り返る。


「聖王国イルミナの聖教会枢機卿ヴィンセント・アークライトだ。また後ほど、極光の聖女アリア殿」


その口元に笑みを浮かべると、ヴィンセントは楽しげに席へと戻っていった。

だが、大会が再開されることはなかった。

決勝相手の聖騎士隊長が辞退したことにより、シルヴァの優勝が決まったのだ。

だが決勝が不戦勝となったことに対して観客からの批判の声は少なかった。


直前に起きた出来事によってシルヴァの力を十二分に知ることが出来たから。

力だけでなく、その金色のオーラは高潔の証であると、観客は大いに盛り上がったのだった。



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