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金色に瞳が染まる時、私の従者は世界を変える  作者: 727


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プロローグ

街から遠く離れた禁忌の森。

その境界近くに立つ廃墟の教会は、人にも獣人にも避けられる場所だった。

数百年前の「呪われた惨劇」以来、この地は病と狂気の坩堝だと信じられている。


その廃墟の奥、地下の石室。

一人の男が、地面に這いつくばっていた。


全身の皮膚の下で熱が暴れ狂い、骨が軋む。爪先と奥歯は既に鋭利な獣のそれになりかけ、視界は赤く染まっていた。


男の喉から漏れるのは、人間の声ではない、獣の低い唸り声だ。数日間の飢餓と過度な疲労により、自身の力が制御不能に陥ったのだ。


男は必死に自らの四肢に巻き付けた鎖を握りしめ、冷たい石床に頭を叩きつけることで、わずかに残った理性を繋ぎ止めていた。


男は知っていた。

この状態が限界を超えれば、自分は周囲すべてを破壊する怪物となる。

それは、男が何よりも恐れる、世間が言うところの「呪いの証明」だった。人間にも、獣人にも、彼の存在が災厄をもたらすと。


鎖を持つ手が血で滑る。

やがて男は限界を迎え、理性が溶ける――。


その瞬間、異様に純粋な魔力の波動が廃墟全体を覆った。


「まったく、禁忌の森と言われているから来てみたものの、何が禁忌なのかしら。ここもただの廃墟だし。でもまぁ身体を少し休めるくらいなら問題ないわね――」


声と共に、地下の入り口に姿を現したのは、美しい金色の髪を夜の闇に棚引かせたエルフの女――アリア・ヴィルミリアだった。

碧眼のその瞳には、傲慢なほどの余裕が湛えられている。

エルフは長命種であることは周知の事実であるが、アリアはそれに加えて魔力に長けるハイエルフだった。

ハイエルフの成人の儀式として、郷を離れ外界を知る旅に出て数ヶ月。

本来であれば保護者がわりの護衛が共に旅に出る掟ではあったものの、アリアは「私より弱い者に、護衛が務まるはずがない」と郷の護衛を断り、一人旅を続けていた。


何の問題もなく旅を続けていたアリアだったが、地下に足を踏み入れた石室の奥、鎖に繋がれた半人半獣の姿を目にし、初めて戸惑いで足が止まる。


「獣人?……いいえ、違う。こんな不安定な波動、獣人のものじゃない」


アリアは休憩場所にしようとしていた場所で発生した想定外の事象に眉を顰めた。

しかし、退くという選択肢はない。

郷一番の実力者としての誇りがそれを許さなかった。


アリアは自らの魔力で構築した三重の防御障壁を展開する。青く発光する結界が彼女と半人半獣を遮断する。


半人半獣だった男は、完全な獣へと姿を変え始めていたが、若く未熟なハイエルフは、目の前の半人半獣が持つ力の本質的な危険性を見抜けていなかった。


「あなたみたいなの、本当に存在するのね」


アリアの頭の中にあるのは「未知の解明」という知的好奇心と、自慢の魔法でその力を「屈服できる」という傲慢な確信だけだった。


「その力を私に見せなさい。そして、私に解析されることに感謝するのよ」


彼女の命令は当然のことながら獣の男には届かない。


理性の限界を超えて、男の口が裂け、鋭い牙が並び、瞳は金色に輝きを増す。

全身の皮膚の下で筋肉が巨大化し、千切れた鎖が虚しく音を立てた。男はもはや、人間の姿を保てない。


「ガアアアアアアアア!」


姿を現したのは猛々しき大型の銀狼。

喉から絞り出されたのは、大地を震わせる純粋な力の咆哮。


その瞬間、男の獣性は、この場にある唯一の「生命」であり、「力」であり、そして「獲物」となり得るハイエルフを本能的に狙い定めた。


男はその巨大な質量と獣の衝動に任せた圧倒的な突進で、アリアが張った障壁を破壊していくと、その勢いのまま飛びかかる。


「そんな――」


目の前に迫る銀狼の巨大な影。

彼女は、自らの結界の輝きを反射させた瞳に、初めて本能的な恐怖を映した。

誰よりも能力に秀でていると自負していた自分が、自分を圧倒する存在に遭遇したことを悟る。


生まれて初めての、挫折と絶望だった。



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