ひび割れる沈黙
アイデアが思い浮かばない...
議会の空気は、日に日に刺すようなものへ変わっていった。
あの衝突事件以降、敵対勢力は沈黙していたが、それは嵐の前触れだったらしい。
表向きの礼節は保たれている。だが、その言葉の端々には、迷いなく刃が潜んでいた。
「セレスティア様、あなたの判断が国を不安定にしているのです。」
「最近の政庁内の混乱――民は皆、不安を語っておりますよ。原因がどこにあるか、お考えいただきたい。」
「あなたのあの無感情な姿勢が、むしろ不安を煽っている。」
責任転嫁。その言い方は実に巧妙で、誰も直接的な非難はしない。
だが、全ての矛先がセレスティアに向けられているのは明らかだった。
セレスティアは表情ひとつ変えなかった。
うつむくことも、声を荒げることもない。
ただ冷静で、淡々と、事務的に返す。
「不安を生まぬ政治を為すために、法案を整備している最中です。民意は把握しています。」
──本当は、少しだけ苛立っていた。
彼らが、国の混乱を自分のせいにしようとしていること。
自分が、彼らの歪んだ論理に利用されること。
そして――その苛立ちの奥底に、
あの日、助けてくれたマルセロの顔が浮かび上がる。
なぜ思い出してしまうのだろう。なぜ安心したのだろう。
そういう理解したくない感情が浮かんでくる。
セレスティアはその気配を振り払うように、議場を後にした。
その日の夕刻、王都近郊の地区で小規模な爆発が起きた。
けが人はいなかった。
しかし、住民の不安は広がっていた。
原因は調査中で、テロの可能性も完全には否定されていない。
報告を受けたセレスティアは、即座に視察の準備を指示した。
「現状を正確に把握しなければ、対策も立てられません。」
その声に、護衛隊長が眉を寄せる。
「セレスティア様。危険すぎます。いまは状況が不透明で……」
「けれど、わかくしが行かねばならないでしょう。」
それは揺らぎのない判断だった。
民が不安を抱えているとき、自ら足を運び、言葉を交わすこと。
それは彼女が情報員のときに受け継いだ、“責任”という名の行動だった。
そこへ、静かな低い声が割り込んだ。
「行かせるべきではありません。」
マルセロだった。
気配はいつもと変わらぬはずなのに、その声だけはわずかに強かった。
「あなたが行く必要はない。職員に任せてください。」
セレスティアは振り返った。
少し驚いたが、それよりも――その言い方が気に障った。
「必要かどうかは、私が判断します。」
「ですが――」
「あなたに、口を挟む権利はありません。」
言い切った瞬間、空気が冷えていくのが分かった。
護衛たちでさえ息を呑むほどの緊張が走る。
それは初めて、二人が真正面から衝突した一瞬だった。
マルセロの瞳が静かに揺れた。
怒りではない。
苛立ちでもない。
ただ、抑えきれない“心配”が、その瞳の奥に溢れていた。
「あなたが危険に晒されるのを、私は見過ごせません。」
その一言が、セレスティアの胸を強く刺した。
どうして。
なぜ、そこまで。
心配する理由が分からない。
いや、本当は分かってしまいそうな自分が怖いのだ。
「これは責任を負う者としての判断よ。」
セレスティアはあくまで冷静を装った。
「あなたの個人的感情を優先させる場ではないわ。」
個人的感情――その言葉に反応するように、マルセロの息がわずかに止まる。
そして彼は、ほんの少しだけ視線を落とした。
「......そう、ですね。」
その声音には、どこにも向けられない思いが滲んでいた。
セレスティアは、なぜか胸が痛んだ。
だがすぐに、その痛みを怒りへ変換する。
――どうしてわたしはあなたの言葉に、影響を受けなければならないのかしら。
「準備を続けなさい。行きましょう。」
そう言い残し、彼女は歩き出した。
背後で、マルセロが何か言いかける気配があった。
けれどセレスティアは振り返らない。
振り返ったら、迷いが生まれる。
二人はお互いの間の距離を「意図して」離れ始めた。
セレスティアは感情を押し殺し、マルセロから距離をとる。
マルセロは感情を抑えきれず、彼女を遠くから見守る。
どちらも正しく、どちらも間違っていた。
そして、そのわずかな断絶が――
後に、取り返しのつかない溝を生むことになる。
「ラステルだけど、ヤンデレに捕まって幸せになります」を昨日投稿しました!よかったらぜひ読んでみてください!
たぶん交互で更新します。
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