たった一言の鎖 sideマルセロ
やっと、やっとマルセロ視点です!
朝の光がガラス天井を滑り落ち、白金の柱を染めた。その中で、彼女はひどく静かだった。背筋は凍るほどまっすぐで、息をしているのか疑うほど穏やか。
......昨夜と、何も変わらない。
私はその沈黙に触れたくて、隣の席に座った。
「おはようございます、セレスティア様。今朝のコーヒーは苦くありませんでしたか?昨夜のような味を、引きずるのは好みではないでしょう」
彼女が瞬きをひとつしただけで、胸の奥がざわついた。
あれは拒絶ではない。
ただの反応。
だが、私には十分すぎる。
書類を渡したとき、彼女の指先が紙の端をすくうように触れた。
その一瞬の温度すら、観測したくなる。
「あなたに教える義務はないでしょう。」
その冷たい声に、笑ってしまいそうになった。
そうだ。
本当にそのとおりだ。
だからこそ私は、彼女が選ぶ“結果”だけを求めている。
――彼女の沈黙で世界がどう動くか。
投票の札があがる瞬間、私は横顔を見た。
迷いのない、ただの“動作”としての決断。
美しくて、残酷で、理想的だ。
あの瞬間、私は敗れたのではない。
......彼女に再び惹かれたのだ。
議会が終わってしまった。もし何事もなければ、彼女はきっと帰ってしまうだろう。もしかしたらもう、会えないかもしれない。
......だが、私はまだ彼女のことを見ていたい。
そう思うと、私は思わず聞いてしまった。また会えるかどうかを。
彼女のことだ、絶対に拒絶してしまうだろう。
「会う必要はありません。ただ......状況がそうさせるなら別です。」
彼女は冷たかった。
だけど、その答えは完全に私のことを拒絶していなかった。
私はそれに驚いてしまった。それと同時になんとも言えない悦びが込み上げてきた。
あぁ、いけませんよセレスティア様。あなたがそう言うから、私はあなたを追わずにいられない。
周囲はまだ彼女の美しい一手にざわついていた。だけど私は周りのことを気にしなかった。いや、気にすることができないといったほうが正しいだろう。
「次に会う時は、今日よりも近い距離でお会いしましょう。......セレスティア様。」
彼女は振り返らずに歩き去った。淡い金の髪が揺れ、白金色の光の中に溶けていく。
その後ろ姿を見送りながら、胸の奥に静かに火が灯る。
――これで終わりだと思うほど、私は諦めが良くない。
会いたい、などという幼い感情ではない。
もっと精密で、もっと厄介で、もっと彼女向きの衝動だ。
観測したい。
理解したい。
手放したくない。
そのすべてを、彼女の沈黙が許してしまった。
あぁ......本当に、残酷だ。
完全に拒絶してくれた方が、どれほど楽だったか。
あの人は切り捨ての名手なのに――なぜ、今日に限ってあんな言葉を残すのだ。
「状況がそうさせるなら別です。」
その一言が、私を此処に縫いとめている。
私は笑ってしまいそうになった。
嬉しさと、痛みと、執着と......形容のできない熱が胸を締めつける。
また会えるかもしれない。
その可能性が、決定権ごと彼女の手のひらにあるという事実が、たまらなく良い。
私は彼女に支配されることを厭わない。
いや――その価値がある。
白金の議場がざわめき続ける中、私はただひとり静かに息を吐いた。
「……セレスティア様。これは困りましたね。」
声にならないほどの熱が胸の奥で渦巻く。
――あなたがあの言葉を口にした以上、私はもう離れられない。
そして、心の奥で静かに、確信に似た呟きが落ちる。
次に会う時、私は今日よりもずっと深い場所で、あなたを捉えている。
次にセレスティア視点書きたいですね
最後まで読んでいただきありがとうございます!
誤字・脱字やアドバイスもあればコメントください!




