沈黙が世界を動かす朝
やっとマルセロの執着を書けます...
朝になった。朝の光がガラス張りの天井から差し込み、広いホールを白金色に染めた。空気は冷たく、静謐。数十名の重役と報道陣が席につき、ざわめきが生まれる前の緊張が漂っていた。
壇上では議長が書類を整えていた。セレスティアは議事堂の後方に座っていた。その隣に、 黒のスーツに身を包んだマルセロが、まるで何事もなかったかのように座ってきた。
「おはようございます、セレスティア様。今朝のコーヒーは苦くありませんでしたか?昨夜のような味を、引きずるのは好みではないでしょう。」
マルセロは資料を開きながら、まるでただの挨拶のように口にした。
「今日の議会はあの封筒の中身に関わります。あなたがどう動くかによって、この場の票は天と地ほど変わります。」
マルセロは一枚の書類をセレスティアに滑らせた。そこには数字と名前が並んでいる――セレスティアの票を加えれば、過半数を越える計算だ。
「あなたはどちらを選びますか?新体制への一歩か、今のままか。 ......それとも、第三の道をお持ちですかな。」
「あなたに教える義務はないでしょう。」
マルセロのページをめくる指がぴたりと止まり、横目でセレスティアを見た。その視線は静かで、しかしわずかに愉悦めいた光を宿していた。
「相変わらず冷たいですね、セレスティア様。」
「確かにそのとおりですね。あなたは何一つ、私に教える義務はない。むしろ、教えないという選択こそ、あなたという人間の流儀だ。」
そして資料を閉じ、軽く胸元に手を当てて、深い礼のように囁いた。
「ただ、勘違いはしないでほしい。私は“知りたがっている”のではない。結果だけを観測すれば、あなたが選んだ道は嫌でも見えます。」
「言葉は不要だ。あなたが票をどう動かすかそれだけで充分です。」
その時、議長がハンマーを鳴らし、会場に沈黙が落ちた。
マルセロはセレスティアの横顔を一瞬だけ見つめ、微笑んだ。
「さぁ、セレスティア様、この沈黙の答えを、この場に示してごらん。」
議長の「投票を開始します。」と言う声に合わせ、ほとんどの重役は彼らの答えを示した。セレスティアを除いて。そしてそれはマルセロの言うよう、ちょうど半数に別れた。つまり、セレスティアの一票によって、財閥連合の勢力図を塗り替える。
すべての人が後ろへ振り返り、セレスティアに注目した。誰もが息を呑んで、彼女の結果を待った。それはあまりにも静かで、誰もが固唾を飲んでいた。
セレスティアは大勢の注目にも臆せず、涼しい顔で賛成という札をあげた。迷いも、逡巡も、誰への牽制もない。ただ“結果”だけを置いていく、あの夜と同じ沈黙で。
次の瞬間、会場内はざわついた。
それもそうだ、そのたったの一票で財閥の勢力図が今この瞬間に、塗り替えられたのだ。
マルセロは横で、短く息を吐き、ゆっくりと笑う。敗北ではない。想定外でもない。
けれど、“やられた”と認めざるを得ない種類の静かな感嘆だった。
「なるほど、これがあなたの答えですね。」
会場で、いまだざわついている重役たちを手で示しながら言った。
「沈黙で刃を振るい、沈黙で世界を動かす...美しいですな。まさにあなたのやり方だ。」
壇上の議長が、震える声で結果を読み上げる。
財閥の勢力図が正式に、塗り替えられたのだ。
マルセロはセレスティアに目を向けた。その金色がかった琥珀色の瞳に小さな火が灯し始めた。
執着、という火を。
マルセロはわずかに頭を下げる。敗者ではなく、観測者として。
「セレスティア様、また会いましょう。ただ、もし再び会えなければ……私はきっと、あなたを探すでしょうね。」
マルセロは捕まえた獲物は離さない、といった捕食者みたいな視線をセレスティアに向けた。
「会う必要はありません。ただ......状況がそうさせるなら別です。」
セレスティア冷たく、しかし拒絶しきらない態度だった。
マルセロは驚いた。それと同時に喜びが込み上げてきた。あの冷徹で名高いセレスティアがはっきりと拒んでいない。それが何より彼を喜ばせたのだ。
「......完全には拒まないのですね。」
低く、ほとんど囁きに近い声で続けた。
「あなたは本当に残酷だ。冷たく切り捨てることもできたのに......その一言で、私は何度でもあなたに会うことができる。」
彼の瞳の奥に火が灯った。
執着と、尊敬と、悦びが混ざった色。
「会う必要はない――しかし“状況がそうさせるなら”会う。あなたがそう言った以上、私は必ずその状況を作り出しましょう。」
周囲ではまだ議会のざわめきが続いていた。
だけどマルセロの世界には、もうセレスティアしか映っていなかった。
「......たとえ百回遠ざけられても構いません。」
「あなたが完全に私を切り捨てない限り、私は何度でも戻ります。あらゆる口実を使い、どんな状況でも作り出し、あなたの前に立ち続けます。」
そして、身を少しだけ乗り出し、声を落とした。
「――だから覚悟していてください。
あなたがその言葉を残した以上......私はあなたを手放す理由を、一つも持たなくなる。」
マルセロの微笑みは優しく、しかし獲物に牙を立てる直前の捕食者のものだった。
「次に会う時は、今日よりも近い距離でお会いしましょう。......セレスティア様。」
近い内にマルセロ視点書きたいですね。
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