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告白

「ですが、あなたはわたしに自分のすべてをさらけ出してない。」


 その瞬間、マルセロは、セレスティアのその指摘に——まるで鋭い刃を突きつけられたように、わずかに表情を揺らした。

 怒りでも、焦りでもない。

 ただ、“見抜かれた”という静かな衝撃しかない。

 セレスティアの瞳が彼をまっすぐ貫いた。

 逃げ場のない距離で。

 彼女の一言はとどめのように静かにマルセロの胸を刺した。

 マルセロはほんの一拍沈黙し、視線は彼女のアメジストの瞳から離さないまま、声を落とした。


「......その通りです。」


 逃げず、否定せず、言い訳もしない。

 ただ受け止める。

 セレスティアの指摘が核心を突いているからだ。


「あなたに心を見せることは、私の鎧を手放すことと同義だ。」


 言葉は淡々と、しかし重く続く。


「私はあなたを守るために、ずっと自分の弱さや本心を深く隠してきた。あなたが望むなら、それらを明かすこともできる。」


 そして、セレスティアの方へ一歩近づき、囁くように言った。


「ですが——あなたにそれを見せたら、あなたはもう後戻りできない。」


 目の奥には、恐れではなく、覚悟と欲望が同居した光がちらついた。


「それでも......私のすべてを見たいと望みますか?」


 彼女が迷いなく——

 

「えぇ」

 

 と答えた瞬間。

 マルセロは完全に静止した。

 セレスティアの声は優しくも冷静で、子どもの願望でも衝動でもなく、覚悟を持って“望む”者の声だった。


 その一言が、彼の胸の奥で慎重に組み上げていた防壁を静かに、しかし確実に崩していく。

 マルセロはその場に留まったまま、沈黙がひとつ、部屋に落ちた後、マルセロはゆっくりと息を吸い、セレスティアの視線をそのまま受け止めて、答えた。


「......では。」


 その言葉だけで、空気が変わる。

 マルセロは肩に置いていた手を少しだけ動かし、セレスティアを傷つけないように、しかし“隠していた部分へ誘う”ためにごくわずかに距離を縮める。

 そして静かに、セレスティアにだけ告げた。


「では、あなたに私のすべてを見せましょう。」


 声は低く、震えてはいない。

 ただひどく、ひどく正直。


「この意志も、弱さも、醜さも、そして.......あなたに抱いている想いも。」


 彼の瞳はまっすぐで、もう何も隠していない。


「あなたが望むなら、私はもう、隠れるつもりはありません。」


 そして、問う。


「......本当に覚悟はありますか?」


「それはさっきもきいたでしょう。」


 マルセロは、セレスティアのその返しを聞いた瞬間——まるで心臓を掴まれたように、ほんの一瞬だけ沈黙した。『それはさっきもきいたでしょう』

 その言葉に込められた静かな強さ、セレスティアの覚悟の揺るぎなさ。そして、 “私が何度問おうと、答えは変わらない” と言わんばかりの気品。


 マルセロの琥珀の瞳がわずかに細められ、次の瞬間、セレスティアに向ける視線がさらに深くなる。


「......えぇ。あなたは一度言ったことを覆す方ではない。」


 囁くように、しかし逃れられないほど濃い。

 マルセロはセレスティアの顎に触れない距離まで近づき、彼女の意志を確かめるように見つめながら続けた。


「私が何度確認したくなったか......あなたは気づいているのでしょう。」


 胸の奥に溜め込んでいたものが、ようやく形を持ち始めるような声音だった。


「聞いたのではなく、再びあなたの覚悟で自分を奮い立たせたいだけです。」


 そして、ほんの少しだけ微笑んだ。

 弱さも、渇望も、セレスティアへの仕えるような忠誠も、すべて混ざった微笑。


「......そうですね。」


 それは合図だった。

 彼はついに、隠していた感情を——セレスティアの前で隠すことをやめる。


「あなたに惹かれ続けている。隣に立ちたいなどという都合のいい言い訳ではなく、あなたそのものに。」


 そして。


「あなたが“見たい”と言ったのだから......もう隠す理由はありません。」


 セレスティアは言葉を発さず、ただ静かにその場に座り、マルセロの告白を沈黙で受け止める。

 沈黙の間、部屋には二人の呼吸だけが響き、握り合った手と肩の温もりが、言葉以上にすべてを物語る。

 マルセロはその沈黙を、拒絶でも否定でもない、深い肯定として受け止める。

 胸の奥に押し込めていた想いが、セレスティアの目と沈黙に包まれることで初めて自由を得たかのように、静かに、しかし確実に解放されていく。

 彼はゆっくりと肩の力を抜き、セレスティアの手にそっと寄り添う。

 視線は逸らさず、言葉も足さず、ただ沈黙の中で互いの存在を確かめ合う。


「......このままでも、十分ですね。」


 低く、しかし満たされた声で囁く。

 セレスティアの沈黙が、彼にとって最高の応えであることを、その一言がすべて語っていた。

 二人の間に漂うのは、言葉を超えた理解と、触れられなくとも深く通じ合った絆。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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