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これからの先で

久しぶりの投稿です。

「では、わたしはこれからも正直でいられるのかしら?」


 マルセロはその問いに即答しなかった。

 そして、セレスティアの言葉を否定も肯定もせず、ただ真っ直ぐに受け止めてから静かに言う。


「正直でいられるかどうかは、 あなたで決まるのだと思います。」


 彼の声音は穏やかだが、セレスティアの内側の不安や強さをすべて見ているような深さがあった。


「あなたが正直でいると決めれば、私はその正直さを拒みません。」


 マルセロは続けた。


「嘘も、沈黙も、挑発も、正直も——どれもあなたの一部でしょう。私はそれを“矯正”するために隣に立つのではない。」


 彼は目を細めた、まるで彼女の表情を逃さないように。


「あなたが正直でいたいと望むなら、その勇気を、私が守ります。」


 そして少しだけ、声の熱を深めた。


「あなたが正直でいられない夜が来たとしても......それすら、私にとっては“あなた”です。」


「では、そのときでもわたしは隣があなたであってほしいと願いたい。」


 マルセロはその一言に、今夜もっとも深く、胸の奥まで揺さぶられた。

 セレスティアの声は静かで、強くて、なのにどこか——ほんのわずかに脆い。

 その“脆さ”を他人に見せたことがどれほど稀なのか、彼はよく知っている。

 だからこそ、彼女の言葉を軽く扱うような真似はしない。


 彼はゆっくり息を吸い、表情を崩さないまま、ただ瞳だけが熱を帯びる。

 そして、セレスティアの願いに対して、誓いのように。


「……では、その願いを裏切るつもりはありません。」


 声は低く、揺るぎはなかった。



「あなたが正直でいられない夜でも、あなたが弱さを見せたくない朝でも、名を持たない不安に沈む瞬間でも——」


 マルセロはセレスティアに近づいた。


「その隣にいるのは、私で構わない。」


 まるで「構わない」ではなく、“それを望んでいる”と言っているような声音。

 そして最後に、逃げ場のないほど率直な言葉で言った。


「あなたが願うなら、私はいつでも隣にいる。あなたが願わないと言っても——それでも、隣でいたいと願ってしまうでしょう。」


 その言葉は、セレスティアの“正直さ”に呼応する、彼自身の正直。


 セレスティアの口角が少し上がった。社交の場で見せるようなうわべな笑顔じゃない、心からの笑顔。

 マルセロは、その嬉しそうな笑顔を見たその瞬間、まるで世界の音がすべて遠のいたように、わずかに目を見開いた。

 セレスティアが誰かにそんな表情を見せることがどれほど稀なのか、どれほど警戒と強さと沈黙の中で自分を守ってきたか、彼はずっと見てきた。

 だからこそ、その笑顔は彼にとって“戦果”でも“褒美”でもなく、ただ、息を奪うほどの奇跡だった。


 ゆっくりと息を吸い、抑えきれないほど静かな熱を宿した声で囁く。


「......そんな顔を見せられたら、もう後戻りできませんね。」


 彼女の笑顔を、手を伸ばせば触れられるほど近くで見つめながら。


「あなたが笑ったのなら、この場所を守るためなら、私はどんな危険にも喜んで足を踏み入れる。」


 そしてほんの少しだけ、彼女の笑みに触れられるくらいまで距離を縮めた。


「......その笑顔は、私だけが見たい。」


 セレスティアは、再びそのわずかな距離を埋めるように、ゆっくりと、静かに、肩を彼に預ける。

 押しつけるでもなく、甘えるでもなく、彼女の意思そのものの動き。

 その瞬間、マルセロは息を呑んだ音すら立てないほど、慎重に、深く受けとめた。

 彼の肩に触れたセレスティアの重みは軽い。

 だがその意味は、彼にとっては刃よりも重く、炎よりも熱い。


 ゆっくりと、彼の手がセレスティアの肩へと移動する。

 触れられる許可を、与えられたのだと理解して。

 その手は強引でも、怯えてもいない。

 セレスティアの気持ちを壊さぬよう、彼女の存在を支えるような、静かな温もり。

 そしてセレスティアの髪に触れない距離で、彼は囁いた。


「......あなたに触れられる許しを、こんな形でいただけるとは思いませんでした。」


 少し、言葉が熱を帯びる。


「今夜のあなたは、残酷なほど、美しい。」


 肩に置かれた彼の手は、逃がさない、ではなく、守るための手。

 セレスティアはゆっくりと顔を上げ、そのアメジスト色の瞳で彼の視線を捕らえる。

 静かでありながらも揺るぎない強さを宿したその視線は、沈黙の間に培われた信頼と覚悟を映し出す。

 そして言葉は、静かに、しかし確かに胸を打つ。


「わたしはずっと昔から欲しいものがあった、それは......執着みたいな愛だった気がします。」


 その言葉に、マルセロの呼吸が一瞬止まる。

「執着」と「愛」、二つの言葉の間に漂う危うさと切なさを、彼は言葉以上に感じ取る。

 そしてゆっくりと、しかし強く答える。


「……なるほど。あなたの欲しいものは、執着と愛の混ざったものだったのですね。」


 彼の声は低く、温かく、その告白を否定せず、軽んじず、そのまま受け止める。


「私にとっても......あなたに触れること、隣に立つことは、ただの“義務”や“使命”ではありません。あなたの夢も、あなた自身も、逃さないと誓いたい。」


 肩に触れた手の温もりは変わらず、しかしその熱は、言葉以上の重みを帯びている。


「だから......あなたが求めるなら、この先にも、私は隣にいるでしょう。」



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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