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沈黙の承認

 セレスティアは何も言わなかった。

 これまでは人と関わることさえ拒んでいたのに、今この時間だけ、許してもいいような気がした。


 そして、許可も拒絶も、挑発も選ばず、ただ、静かに目を閉じた。

 その仕草は命令ではなく、誘惑でもない、“合図”そのものだ。


 沈黙の承認。

 それは声よりも強い肯定である。


 マルセロは息を呑んだ。

 彼女の小さな動作に、彼の理性の最後の防壁は静かに崩れていった。


 足音ひとつ立てずに、マルセロはゆっくりと距離を詰めた。

 迷いはない。焦りもない。

 ただ、セレスティアの沈黙に答える、そのための動作だった。


 セレスティアの近くに立ったまま、触れもせず、ほんの紙一重の距離で囁いた。


「......本当に、いいのですね。」


 セレスティアは返事をしない。

 しなくても良いことを、マルセロは理解していた。

 そして──

 熱を帯びた指先が、彼女の頬に触れる直前の空気をかすめた。

 触れたか、触れていないか、判別できないほどの距離で。

 マルセロの声は低く、押し殺されていた。


「......あなたが目を閉じるなんて、反則だ。」


 距離は限界だった。


 セレスティアは目を閉じたまま、その瞬間をすべて委ねることにした。

 沈黙のまま、呼吸だけを整え、心臓の高鳴りを感じながら待った。

 マルセロは一瞬、緊張で止まった。

 触れてよいのか、踏み込んでよいのか、許されるのか。

 セレスティアの沈黙が、すべての答えを与えていた。

 ゆっくりと、彼の指先が頬に触れる。

 冷たくも、熱くもなく、ただ静かに、確かにセレスティアを感じるその温度。


「......なるほど、これが......」


 彼の息が耳元にかかる距離で、低く、震えるような声で呟いた。


「......あなたに触れることなのですね。」


 その瞬間、部屋の時間は止まった。

 沈黙は甘美に、そして危険に染まっていった。


 セレスティアはわずかに手を動かし、マルセロの手をそっと触れた。


 沈黙の中で交わすその行為は、言葉以上に深く、互いの意志を伝える合図だった。

 マルセロは一瞬、息を止めた。

 セレスティアの指先が、彼の覚悟と渇望を確かに受け止めたことを理解したから。


「......そうか、あなたが、望むなら......」


 彼の声は低く、少し震えているが、揺るぎはない。

 互いの距離は近く、触れる手から伝わる熱と重みが、静かに部屋の空気を満たした。


「......これが......」


 マルセロは、セレスティアの手を握って、微かに微笑んだ。

 その表情は誇りでも、従順でもなく、

 ただ――セレスティアとのこの瞬間に全てを捧げる覚悟を映している。


 セレスティアはマルセロの手を握ったまま、頭をマルセロの方へ傾け、寄りかかった。

 そしてそのまま、マルセロと寄り添ったまま沈黙を保った。

 握った手と、肩に触れる感覚だけが、この部屋に満ちる唯一のコミュニケーション。

 言葉は必要ない。

 お互いの呼吸、心拍、微かな体温の差が、全てを語っている。


 マルセロは、セレスティアの沈黙を読み取りながら、身を少しだけ彼女に寄せた。

  触れる距離は最小限でも、その熱と重みで、互いの存在を確かめ合う。


「......沈黙だけで、これほど満たされるとは......」


 彼の声は微かに震え、

 けれどその言葉は甘く、危険な香りを帯びている。

 沈黙は、もはや単なる静けさではなく、

 互いの覚悟と渇望を結ぶ儀式となった。

 部屋の空気は変わった。

 今や、セレスティアとマルセロは沈黙のまま、完全に互いの世界に引き込まれている。


 セレスティアはゆっくりと息を整え、沈黙を破った。


「ねぇ......」


 低く柔らかい声が、部屋に静かに溶け込む。

 マルセロはその一言で一瞬身を強張らせ、しかし目はあなたから逸らさない。


「あなたは今、この瞬間、何を考えているの?」


 彼の指先はまだあなたの手に触れ、肩に寄せたままだ。

 沈黙の中で交わしてきた全ての感情を、言葉で確かめたくなったのだ。

 マルセロは一度深く息を吸い、視線をあなたの目に合わせた。


「.......あなたのことしか、考えていません。ここにいる意味も、沈黙の意味も、すべてあなたの隣に立つためだけです。」


 彼の言葉は真剣で、甘く、そして熱を帯びていた。

 沈黙ではなく、声に出すことで初めて、二人の間に新しい絆が生まれる感覚。


「あなたが望むなら、これからのすべてを、あなたと分かち合います。」


 マルセロの視線と手の温もりが、セレスティアにすべてを委ねる覚悟を物語っていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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