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25. 欠片も愛されていなかった元側妃の幸せ

 

 ────そうして私たちは未来の王と王妃にスパルタ教育をしながら、着々と結婚式の準備を進め……

 あっという間に日は流れ、とうとうその日を迎えることになった。



✲✲✲✲✲



「わぁ、エドゥイナ様、お綺麗ですね!」

「あ……ありがとう」


 私の沢山のこだわりをつめて製作されたウェディングドレスに身を包んだ私に満面の笑みで声をかけてくれたのはセオドラ。


「デザインを見た時から絶対にエドゥイナ様に似合うだろうなって思ってました!」

「そう、かしら?」


 あんまりにもべた褒めされるとこっちが照れてしまう。


「これが前世だったら写真に残せたのにそこは残念ですね」

「ふふ、そうですわね」


 私たちは顔を見合せて苦笑する。

 この世界では絵師を呼んで姿絵を書かせることでしか残せない。


「ついにエドゥイナ様も結婚……」

「セオドラ様?」


 セオドラがしんみりした声でうんうんと頷いている。


「いえ、ついに物語のハッピーエンドまで来たのだな、と思いまして! まあ、相手は違いますけど」

「あー……」


(結局、この世界は何一つ原作通りには行かなかったのよね)


 殿下とセオドラは今も仲睦まじく過ごしているし、私が選んだのは別の人。

 本来はもっと女の争いがあったりするドロドロした物語だったのだろうと予想出来るけど……

 今や、ドロドロ? 何それ状態。

 当然、ざまぁもない。


「わたくしたちが二人揃って転生しちゃったことで運命が変わってしまったのかもしれませんわね?」

「…………私」

「?」


 セオドラが遠い目をしながら呟く。

 その顔はどこか寂しそうで苦しそうにも見えた。


「“ざまぁ”されるセオドラに転生したって分かった時、()()()()()()()と思ったのです」

「え? バチ?」


 そういえば、前世の記憶が戻ったばかりのセオドラは引きこもっていたっけ。

 あれは記憶が戻って自分の断罪される運命(ざまぁ)を悲観した時のショックだけではなかったということ?


「前世の最期───おそらく私がこの世界に転生するきっかけとなった時……」

「……きっかけ」

「おそらくなんですけど……私、他人を巻き添えにしちゃったんです」

「え?」


 巻き添え? それは穏やかではない話だ。


「エドゥイナ様は私がいかにどんくさいかはもう知っていると思うんですけど」

「え、ええ。そうですわね」

「そのどんくささで…………歩道橋で足を滑らせて落下しちゃったんです……」

「へぇ、歩道橋から」


(────ん?)


 私は眉をひそめる。

 気のせい? 何だかすごい既視感。

 私の最期も歩道橋だった気がするけど?


「あ、私の人生これで終わる……スライディング土下座ばかりのどんくさい人生だったので幸せなりたかったなって咄嗟に思いました」

「ス……スライディング土下座ばかりの人生ね、うん……」


 改めて聞けば聞くほど、とんでもない人生よね……と思う。


「ですが、その落下時に───私は歩道橋を上って来ていた人とぶつかってしまって……その方と一緒に落下した───のが前世の最期の記憶なんです……」

「……」


 待て。

 待って、待って、待って?

 混乱した私は、うーんと頭を抱える。


「どんくさいレベルでは済まない話なんです……私はその見ず知らずの方まで巻き添えにして…………」

「あー……うん、それはえっと」


 待って、待って、待って。

 うん、やっぱり……


(────それ、私じゃね????)


 彼氏に言われた言葉や新しい彼女の顔が頭の中をぐるぐる回ってぼんやりしながら、歩道橋の階段を上っていたら、正面からドンッと勢いよく何かがぶつかって来て────……


(何かじゃなくて人だよね? そりゃ、人以外考えられないよねーー……!)


 あれはセオドラの前世だったのか。

 まさかそんな偶然が───……


(いや……違う)


 だから、私たち二人揃ってこの世界に転生したのかもしれない。


「……セオドラ様、もしかしてその落下時にこの世界の小説を持っていたりなんか……」

「え? あ、はい。そうで、すね。カバンの中に」


(ほら来た、だよねーーーー!)


 異世界転生は転生でも何で知らない世界に来たのかと思っていたけれど……

 私は、セオドラに引っ張られたのか───


(疑問が解けたわ……)


 セオドラは事故とはいえ、見ず知らずの人を巻き添えにした前世の自分を責めている───

 確かに私はアレで人生を終えることになった。

 でも……あの日は私も


(前を見ていなかったから……)


 もちろん、前を向いていれば事故が防げたかは分からない。

 けれど……


「セオドラ様」

「───は、はい」


 ビクッとしながらもセオドラが返事をする。

 以前の彼女だったら“へいっ”て返事をしていたであろう場面だ。


(うん……ちゃんと成長しているじゃないの)


 前に会得したとはしゃいでいた必殺カーテシーもちゃんと綺麗だった。

 あれからも練習は怠っていないようで、今のセオドラは綺麗な礼が取れるようになった。

 もうすっ転ぶことはないだろう。


「故意に落下したのでなく事故であるなら、そこまで自分を責めるのはおやめなさい」

「で! ですが相手が……」

「コホンッ…………あー、あの日が人生のどん底だと思っていたその人は、結果的に新たな幸せを見つけて掴み取りましたので、そこはもう気にしなくていいです」

「え……? 新たな……?」


 セオドラがキョトンとした表情を浮かべる。

 私はセオドラの両肩をガシッと掴むと微笑みを浮かべる。


「新たな世界で、最初こそ詰んだ! 最悪! と思ったけれど、あなたと同じように大好きな人と────これから結婚しますから」

「…………ぇ」


 そう言い切った後、私はにこっと笑って呆然としているセオドラの肩から手を離す。

 そして時計を見上げた。


「……あ、式が始まりますわ。さあさあ、セオドラ様は式場にお戻りください、ね?」

「エ、エドゥイナ様……!」


 セオドラが手をパタパタさせて必死に何か言いたそうにしているけれど、私はその背中をグイグイ押して控え室から追い出す。

 その時、セオドラの耳元でそっと囁いた。


「……言ったでしょう? わたくしは幸せは自分で掴み取ると。だからわたくしは()()()()()()過去をウダウダ嘆くことはしません」

「エドゥイナ様……」

「───覚悟なさい。あなたがハンカチでキリキリしたくなるくらいの幸せをこれからたっぷりと見せつけて差し上げますわ!」


 目をパチパチと瞬かせるセオドラに向かって私は大きくそう宣言した。



─────



「……エドゥイナ、綺麗です」

「あなたはかっこいいですわよ、ライオネル」


 そうして結婚式本番。

 私は隣に立った今日からの夫に微笑む。


「……ですが」

「が?」

「どーんと豪華な結婚式にしなくて良かったのですか?」


 ライオネル様は大真面目な顔でそう言った。

 今日を迎えるまでの間、何度このセリフを聞いただろう?

 私はクスッと笑う。


「ウェディングドレスにはこだわりましたわ?」

「それは知っています! しかし、式そのものは……かなり質素な……」

「いいの!」


 私はガシッとライオネル様の両頬を自分の手で挟む。

 そして背伸びして自分からチュッとライオネル様の唇にキスをする。

 式場内がザワッとしたけれど気にしない。


「!?」


 ブワァと顔が真っ赤になっていくライオネル様に向かって笑いかけた。


「豪華でも質素でも……わたくしは皆の前でライオネル、あなたとの愛を誓えればそれでいいの!」

「エドゥイナ……」


 ライオネル様が目を瞬かせる。


「あなたが大好きですわ!」

「俺もです」


 今度はそう言って微笑んだライオネルからの甘いキスが降ってくる。

 それはとってもとっても幸せの味がした。


 こうして───

 入場したばかりなのに、段取りをまるっと無視して誓いの言葉も指輪の交換もせずに、いきなり誓いのキスから始まった私たちの結婚式は、しばらく社交界で大きく騒がれることとなった。



─────


 

 今、自分の目の前にモクモクと広がる湯気を見ながら思う。


(なんか変な感じ……)


 大盛況となった結婚式を無事に終えて───今、私は“初夜”に向けて入浴中。

 前世の記憶を思い出したのもこうして初夜のために入浴している最中だった。


「あの日は結婚式はなく、ただ書類にサインだけして、夫となった殿下にはめちゃくちゃ嫌われていて……ふふ」


 なんだか既に懐かしい。

 無事に離縁して、新たな幸せを手に入れて再婚して────


「失礼します────エドウィナ様?」

「声が聞こえましたので。どうかされましたか?」

「……!」


 シャワーカーテンがシャッと開けられて見慣れたメイド服を着た女性が数人現れた。


(彼女たちを見てメイド喫茶!? って思ったことすらも懐かしい)


「エドゥイナ様。熱くはありませんか? お湯加減はどうですか?」

「ええ、大丈夫」


 私はメイドたちに向かってゆったりと微笑む。

 エドゥイナ? って誰のこと!? どちらさん!?

 なんてもう思わない。


「エドゥィナ様、今夜は初夜ですからしっかり身体を磨きましょう!」

「ええ! お願い!」


 私は満面の笑みであの時とは違って元気よく答えた。




 そして────


 全ての支度を整えて待っていると部屋の扉がコンコンとノックされる。


(き、来た!)


「……」


 スーハースーハーと大きく深呼吸してから勢いよく扉を開ける。


「……お待ちしておりました~───……」


 バンッ


「うッわっ!?」

「わ?」


 勢いつけて開けたせいで何だか懐かしく聞き覚えのある声がした。


「あら! し、失礼しましたわ」

「…………全く君は変わってないな!」


 私はジロッとした目で見てくる夫に向かってえへへと笑う。

 あの時とは違ってその目には愛しさが溢れているのを私は知っている。


「だって、ライオネル。あなたが待ち遠しかったんですもの」

「うっ……」


 一瞬で照れて赤くなるライオネル様。

 彼のこんな照れた時の顔が私は大好きだ。


「さあさあ、どうぞ!」

「エドゥイナ…………今夜は眠れないと思ってくださいね?」

「……ふふ」


 受けて立つわよ! と言わんばかりの顔で、私は愛しい人からのその言葉を受け止めた。



───────

───……



 彼氏に振られて傷心中の私が転生した先は、

 全くもって欠片も愛されてない、愛される要素すらない側妃だった。

 けれど……新たな幸せを掴み取り、

 これからは決まった筋書きのない未来を愛しい人と共に歩んでいく─────



 ~完~


これで完結です!

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。


古いやつだと2、3年前に書いて投稿していた話を時々転載している私ですが、

この話は、今年の2月~3月頃に他サイトに投稿していた話なので、

最近の私の変なコメディ脳のテンションがそのまま強く反映された話となりました……

(1年以上書いてるラブコメ要素の強い『ヤサグレ令嬢』コミカライズの原作の書き下ろしや、これより前に書いて他サイトに投稿していた話がコメディ色強めのばかりだったため)


でも、一番は、私がざまぁの気分ではなかったことも大きいですね。

これまでなら、殿下とセオドラは確実にざまぁされる悪役令嬢の物語になっていたと思います……

たまにはいいかなと思いつつ、

皆がハッピーエンドのこういう明るい話の方が好きで書きやすいなとも思いました。

テンションはちょっとアレですが、楽しんでもらえていたら嬉しいです!


ありがとうございました!!

最後、完結記念にポチッとしてもらえたら大変喜びます!

そして、また私をお見かけした際はお付き合いいただけると嬉しいです~

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