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24. あなたの初恋

 

「め……! 愛で倒すですって!?」

「はい」


 こんな体勢でこの男は何を言っているの!?

 これはもしかしなくても───まさしく貞操の危機!!

 準備も覚悟も何も出来ていない。さすがにそれは早すぎる!


「ラ! ララライオネルッ!」

「どうしました?」


 再び顔を近付けてキスしようとして来たライオネル様の顔を私はガシッと掴んで止める。


(早まらないでーー! ……は違うか)

 

 なんて言ったらいいのか分からなくて焦る。

 でもでもでも、とにかく今は貞操だけは守らないと!!


「わ、わたくし! ……けっ、」

「け?」


 キョトンとした顔で首を傾げるライオネル様。


「け、結婚式! そう、結婚式を挙げるのが夢なんですの!」

「結婚式?」


 聞き返されたので私はコクコクと大きく頷く。

 どうやら気を逸らすことには成功したみたい。

 よし、このまま話を続けて意識を逸らしまくるわよ! ……と考えた私は声を張り上げる。


「ウェディングドレスを着て皆の前で愛を誓い合う儀式ですわ!」

「知っています」

「くっ!」


 あっさり返され言葉に詰まる。

 ライオネル様はうーんと考え込む。


「結婚式……今から手配すると準備に時間がかかりますね?」

「そうですのよ! えっと、ですから……!」


 それまでは、まだ早まった行動は謹んで───

 私はギュッと目を瞑って胸の前で腕を組む。


「───エドゥイナ」


 名前を呼ばれておそるおそる目を開けた。

 すると、ライオネル様は素早くチュッと私の額にキスを落とした。

 そしてそのまま組み敷いていた私の身体を起こして座らせた。


「え……? ラ、ライオネル……?」


 起き上がらせたということは、とりあえず貞操の危機は免れた……?

 そうは思いつつライオネル様を見ると、何やら大真面目な顔でブツブツと呟き始めた。


「なるほど、エドゥイナはどーんと豪華な結婚式をご所望か……」

「は?」


(どーんと豪華な……なんて一言も言ってないんだけど!?)


 いったい何処で脳内変換されてしまったのか……


「そうか……そこで、俺の隣に並ぶエドゥイナの綺麗で美しいウェディングドレス姿を見せつければ懸想する輩も蹴散らせる……?」

「ちょっと、ライオネル……」

「単なる儀式に過ぎないと思っていましたが───結婚式とはそんな素晴らしい見せつけが出来る場だったのか……」

「ライオネルーー?」


 おーいと呼びかけてみるも思考に夢中で私の声が全く届いていない。


「殿下が無駄に派手なセオドラ妃との結婚式を挙げさせていた理由がやっと分かりました」

「え? あー……確かに二人の結婚式は派手でしたものねぇ」


 セオドラと殿下の結婚式を思い出して私は遠い目をする。

 前世でいうところのゴンドラのようなよく分かんない乗り物で入場し、一瞬、火災かと心配した煙はスモークとしての演出だったっけ……

 その後のお披露目パーティーでも超大きなウェディングケーキを用意して食べさせあっていたり……


(あれはどっちの趣味なのよ! なんて思っていたけど)


 それでも二人は幸せそうで、エドゥイナ(わたし)はギラギラした目でキリキリとハンカチを噛んでいたっけ。

 今思えばあの頃のセオドラは前世の記憶を思い出せていなくても無意識に前世に引っ張られていたのかも。


「殿下はああやって幸せを見せつけて周囲を牽制していたのですね」

「……ま、あ? 多分」

「そういえばエドゥイナ……貴女は結婚式でもお披露目パーティーでも終始悔しそうにされていましたっけ」

「!」


 ゲホッと私はむせた。

 ───なんで知ってるのよ!


(もう!)


 悔しくなった私は少しライオネル様をからかってみることにした。

 私は意地悪い顔でふふんっと笑う。


「ねぇ、ライオネル」

「なんですか?」

「あなた───わたくしへの想いは昨日今日自覚したかのような口振りでしたけど……」

「?」


 それがなんだと言わんばかりに眉間に皺を寄せて首を傾げるライオネル様。

 私はニヤリと笑った。


「あなた……本当はずっと前からわたくしのこと意識していて好きだったんじゃないかしら?」

「…………え」


 ライオネル様の顔がピシッと固まる。


「だってあなた、わたくしのことよーーく見て知っていてくれたじゃない?」


 なんて言ってみているけれど、もちろん本当は分かっている。

 私が暴れて殿下に危害を加えないか警戒していただけだってこと。

 その感情をわざと、私を女性として意識していたのでは? と、言ってからかってみる。


「な、にを?」

「だって! わたくしとお父様の確執とか……思い返せばよくよく見ていたでしょう?」

「……」

「それで殿下たちの結婚式の時のわたくしの様子まで事細かに覚えてるし───ん?」


 ライオネル様が目を大きく見開くと口元を押さえて固まっている。

 私は眉をひそめた。


(なに、この反応……)


 自意識過剰では? と鼻で笑われるのを待っていたのになんだか変。

 思っていたのと違う。


「……俺は、ずっと…………貴女を」

「!」

「意識して……いた?」


 あ、ヤバい。

 変なスイッチが入っちゃったかも……と焦る。

 ここは冗談よ、とでも言って逃げ切ろうと慌てて訂正する。


「なんてね! 冗談ですわよ。ホホホ! 初恋でもあるまいし。いくらなんでも恋心と警戒心の違いはあなたにだって分かるでしょう?」

「……」


(んんん?)


 しかし、ここでライオネル様が意味深に固まる。


「ラ……ライオネル?」

「……」


 そして彼は目線だけ上げるとじっと私を見てフルフルと首を横に振りながら大真面目な顔で言う。


「よく分かりません。女性のことを愛しいと思ったのはエドゥイナ……貴女が初めてなので」

「ふぁっ!?」


(ま、まさかの初恋カミングアウト───!?)


 思ってもいなかった返答に今度は私の方が動揺する。

 私は思いっきり咳払いをして動揺を誤魔化そうとした。


「ぅえ! えっと……では、ライオネル。あなたはこれまで婚約というものに対してはどうお考えで……?」

「義務」


 スパッと迷いなく答えるライオネル様。

 間違ってはいない。

 間違ってはいないけど!


「身分や年齢がつりあった令嬢を紹介されてそのまま結婚するのだろうと…………思っていた。だが……」


 そう言ってライオネル様はそっと私の手を取ると優しく握った。

 そのまま手を持ち上げると甲にそっとキスを落とす。

 その仕草に私の胸がキュンとした。


「今は……エドゥイナ以外考えられません────」

「……っっ」


 ライオネル様のあまりのピュアピュア攻撃ににキュン死にするかと思った。



────



「……えっと、それでですね。一つお聞きしたいのですが」

「なんだ?」


 話を終えて、ライオネル様の部屋を出た私たちはセオドラの元に向かう。

 きっと彼女は首を長くして報告を待っていることだろう。

 そうして、ライオネル様と廊下を並んで歩きながら私は一つの疑問をぶつける。


「その、最初から……や、疚しいこと? をするつもりは無かったのなら何故、あんな形でわたくしを部屋に連れ込んだのです?」


 お姫様抱っこで部屋に連れられてベッドに直行して愛で倒す宣言されてしまったから勘違いしてしまったけれど、よくよく確認してみたらライオネル様は最初から“そういうつもり”では無かったという。

 

 ───もちろん、あわよくばと疚しい気持ちはいつでもありますが、さすがに今は無いですよ?


(そう言われた時は顔から火が出るかと思ったわ……全く!)


 あと、いつでも疚しい気持ちはあるって……さすがにはっきり言葉にしすぎじゃない?


「何故って、プロポーズのためですが?」


 私の疑問にしれっとした顔で答えるライオネル様。


「セオドラ妃が言っていました。エドゥイナは照れ屋さんだからプロポーズは他に人の居ない二人っきりですべきだと」

「……照れ屋さん」


(セオドラ……そのアドバイスはなんなの)


「万が一、人前でプロポーズしてエドゥイナがて、ててて? てんぱ? ったらエドゥイナから思ってもない言葉が飛び出してしまうかもしれませんから気を付けて、と」

「テンパ……」


(前世の言語のせいでライオネル様、混乱してるじゃん)


 しかも、だ。

 てんぱってなんですかね? って大真面目に首を傾げている。


「離縁が成立したらすぐにでも正式にプロポーズすることは決めていましたので」

「そ、うですか……」

「アドバイスに従って二人っきりになれるところに連れていきました」

「……ハイ」


 恥ずかしくなって目線を落とすとキラッと私の左手の薬指にはまっている指輪が光った。

 何だかとてもむず痒く感じる。


(前世でも結婚は経験していないから……未知の世界だわ)


 どうやら、私たちは“この世界”の物語とは違う方向に突き進んでいる。

 だからこの先がどう転ぶかは誰も分からない。

 でも……


「エドゥイナ。俺は殿下が謁見室から戻って来たらまずは結婚に向けて休暇の申請をしようと思います」

「え? はい。どうぞ……」

「殿下には俺が不在でもきっちりサボらずに公務をこなしてもらわなくてはなりません」

「……ライオネル?」


 何だかライオネル様はスパルタ教育でも始めそうな勢い。

 また、殿下は縛られながら公務をすることになるかもしれないと思ったら苦笑してしまう。


「ですから、セオドラ妃のことは貴女に任せます」

「!」

「よろしくお願いします」


 ライオネル様の目が、セオドラの教育───もちろん出来ますよね? そう言っている。

 私はふふんっ、と胸を張って笑う。


「もちろんですわ。わたくしを誰だと思って?」

「……それでこそ、俺のエドゥイナです」

「ふふふ」


 顔を見合せた私たちは静かに微笑み合った。


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