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第9話 曖昧な朝
目覚めた時、紗和はすぐにその場所が実家の自室であることを把握できないでいた。ぼんやりと天井を見つめたまま、自分の名前が間宮紗和であることを認識していく。
「おはよう、紗和。起きてる?」
ドアをノックする音と、誰かの声が聞こえた。
――誰の声……
心の中で呟きかけて、はっとする。
「健人」
こんなに寝ぼけた状態は初めてだった。両目をゴシゴシと擦った刺激を感じてから、ようやく返事ができた。
そして身体を起こそうとして、仰天した。なぜこんなに身体が重たいのだろう。まるで前日に激しい運動をしたかのように、全身が鉛のようだった。車移動ばかりだったし、公園の中を軽く歩いただけなのに。
「今起きたとこ。先に朝ごはん食べてて」
風邪でもひいたかと焦ったが、呼吸を整えるうちに少しずつ身体の重みはひいていった。奇妙な感覚だった。
――何……?
立ち上がって、思わず首を傾げた。
――何か。何か重要なことを忘れている気がする
しばらく思案してみたが、遂に思い出せなかった。諦めた紗和は、大きく背伸びをしてから部屋を後にした。