真理ちゃんのおばあさんから語られた真実? (3)
「おばあちゃんは……どんな最期……だったの?」
真理ちゃんのお母さんが、偽者のおばあさんに尋ねている。
「……お昼寝していたの。毎日昼食後に一時間ほどしていてね。このリビングに布団を敷いて……気持ち良さそうに寝ていたわ。でも……目を覚ます事はなかった」
「……おばあちゃん……苦しまずに……逝けたのね……」
「壮絶な人生だった……だからおばあさんには穏やかに過ごして欲しかったの。父親は覚醒者で突然いなくなって……息子は妻を手にかけた……」
「まさか……おばあちゃんは……」
「……真司さんが真琴さんを殺害する現場にいたの……」
「……そんな」
「それを見てしまったせいか、認知症がかなり進んで……もっと私達が強ければ……この二十三年ずっと後悔してきたわ……」
「……私は……何も知らずに……」
「それでよかったのよ……あなたは夫がああいう人だったから、おばあさんを引き取れなかったでしょう?」
「それは……確かに……」
「おばあさんには穏やかに過ごして欲しかった。真叶君が身体が弱くて……あなたは両親を頼りたかったわよね。でも……あなたが私達に頼れないようにする為に『農業が忙しい』なんて嘘をついてごめんなさい……」
「全て……おばあちゃんの為に?」
「……おばあさんが亡くなって……もうこの家から出ようと思ったわ。でも……時々電話してくるあなたを……独りにしてしまうように思えて……」
「電話の声……お母さんだとばかり……」
「ずっとあなたの母親を見守ってきたから……声色や話す癖を真似る事ができたの」
「……おばあちゃんが亡くなった後は……私の為に……」
「でも……あなたには会えなかった。声色は真似できても容姿は違うから……」
「……元夫が、ろくでなしで……私がお母さん達に会いに来られなかったから……あなた達は今真理と暮らしているの?」
「真理ちゃんと真叶君は私達の容姿を知らなかったし……夏休みになるたびに泊まりに来てくれる二人は本当の孫のようにかわいかった……」
「……本当の……孫……」
「ごめんなさい……私達にはそんな権利はないのに……」
「……ずっとずっと……私は……あなた達に守られてきたのね……」
「あなたの両親の遺骨は施設で大切に預かっているわ。私達の役目は……これで終わりね……」
「……え?」
「もう引退する年齢を過ぎているの……」
「引退?」
「真理ちゃん……これからは……お母さんと暮らせるわね……本当の家族と……こんな偽者とは違う本当の家族と……」
「……おばあさん」
真理ちゃんが辛そうに呟いた。
「……ずっとずっと真理ちゃんを守りたかった……でも……いつか……お母さんが会いに来たら……私達が偽者だと分かってしまう……それまでは守りたいと思っていたの……」
「……俺には分からない……分からないよ。だって……俺は本当の真理じゃないのに、おばあさんとおじいさんは俺を愛してくれているんだろ? 毎日言っていたじゃないか……『愛してる』って……俺には『愛』なんて分からない。そんな感情は施設で教えてくれなかったから……でも……おばあさんとおじいさんが与えてくれたのは……『愛』……だ」
「真理ちゃん……」
「血の繋がりなんて関係あるのか? 俺には分からない……だって……俺には……『家族』は……おじいさんとおばあさんしかいないから……」
え?
目の前にお母さんがいるのにそんな事を言ってもいいのかな?
「……真理ちゃん。こんな嘘つきを……『おばあさん』と呼んでくれるの?」
「……俺のおばあさんは……おばあさんだけだから……」
「……真理ちゃん……真理ちゃん……ごめんなさい……ごめんなさい……ずっと嘘をついて……本当にごめんなさい……」
……苦しいよ。
こんな優しい嘘もあるんだね。
見守る者は皆優しいよ。
おじさんもお兄ちゃんも……
皆すごく優しい……