真理ちゃんは『お母さん』って呼びにくいのかな?
「……お母さん?」
真理ちゃんがお母さんの瞳をじっと見つめながら呟いたけど……
疑問系なのはどうしてかな?
お母さんが申し訳なさそうに話を続ける。
「……真理。本当にごめんなさい……私があんな奴らに騙されたから真理まで巻き込んでしまって……奴らの施設に行けば真叶と暮らせると言われて……」
「あの施設の奴らは消された……」
「真理が一番の被害者よ……酷い実験をされたらしいわね」
「……俺は……俺が目覚めた時には実験が終わっていたから何も知らないんだ」
「……そう」
「さっきのは……誰だ?」
「さっきの? ああ。真叶の事ね。真理の兄よ。私の息子……」
「……そうか」
「……真理。ごめんなさい。私はまだ入院しなければいけなくて……もうしばらくここで暮らして欲しいの」
「……え? どこか悪いのか?」
「ああ……病気とかじゃなくてね。ずっと劣悪な環境で過ごしていたから休養が必要なの。本当は真理と暮らしたいけど……元気な真理を病院で過ごさせるのはね……仕事もあるし、素敵なお友達もいるんでしょう?」
「友……そうだ。真葵は俺の大切な友だ」
素敵な友達だなんて恥ずかしいよ……
「真葵さん……あなたが真葵さんかしら?」
真理ちゃんのお母さんが話しかけてきた……
ちゃんと挨拶しないと。
「はい。はじめまして」
「娘がお世話になって……危ないところを助けてくださったとか」
「あぁ……そんな。こちらこそ真理ちゃんにはお世話になりっぱなしで。引っ越しの手伝いまでしてもらったんです」
「……そうですか。よかった……真理は寂しい思いをしていないようですね……」
お母さんは真理ちゃんを心から心配しているんだね。
これか『母親』……か。
私のお母さんもこんな風に心配しているのかな?
「ただいま。あら? 真理ちゃん? お客様?」
この声は……
玄関の外から真理ちゃんのおばあさんの声が聞こえる。
真理ちゃんのお母さんと、お母さんを見守る者が二人いるから中に入れないんだね。
娘さんが帰って来たからきっと喜……
あれ?
おばあさんとおじいさんが真っ青になっている?
「おばあさん、おじいさん。ほら、お母さんって奴が来たぞ! でも、嬉しいのか?」
真理ちゃんは二人の様子に気づいていないみたいだ。
でも『お母さんって奴』?
お母さんとは呼ばないんだね。
それに『嬉しいのか? 』って?
「……え? 『おばあさん……おじいさん』?」
……?
真理ちゃんのお母さんの表情が険しくなった?
「あ……あぁ……」
おばあさんが玄関に座り込んだ?
身体が震えているのが見て分かる。