叔父さんはずっとビールを飲んでいるよね
「遅い!」
おじいちゃんの家の玄関の前で叔父さんが怒っている……
しかもビールを飲みながら……
「ちょっと! 叔父さん! 私とお兄ちゃんを走らせて自分はビールなんてずるいよ!」
「は!? こっちは引っ越ししてるんだ」
「引っ越し? 叔父さんは全然動いていないでしょ!? おじいちゃんと真理ちゃんしか荷物を運んでいないよ!?」
おじいちゃんと真理ちゃんに軽トラから段ボールを運ばせて自分だけビールなんてダメだよ。
「今は休憩中だ」
「もう! 叔父さんはずっと休憩中でしょ! おじいちゃん、真理ちゃんごめんね。あとはわたしがやるから……ほら! 叔父さんも!」
「はぁ……面倒だな」
「面倒じゃないの! ほらほら動いて!」
「ははは。一真は真葵ちゃんの言う事なら聞くのか」
おじいちゃんが嬉しそうに笑っている。
「甘やかすとダメなの! 叔父さんはうるさく言わないと何もしないんだから!」
「でも、もうこの箱で終わりだよ。小さくて軽い箱だね。一真も真葵ちゃんも荷物が少ないけど、色々処分してきたのかな?」
その箱は……
捨てたら叔父さんが怒るから絶対捨てられないアレだ……
「ううん。家具だけ置いてきたけど、元々持ち物は少なかったの」
「そうか……これからはおじいちゃんが贅沢させてあげるから……そうか……だから真葵ちゃんはガリガリに痩せ細っていたのか……」
あれ?
もしかして何か勘違いさせちゃった?
「親父……よく見てみろ。真葵のどこがガリガリなんだ? 二重顎で一か月前まで普通に着ていた服がはち切れそうだろ」
「はあ!? どこが!? 確かにちょっとはきつそうだけど入ったよ!?」
「……お前……撮影日までに痩せるんだろうな? 用意されてる服が入らなかったらどうなるか……」
「大丈夫! 絶対痩せるから!」
「そんな事言って……今朝もさんざんおかわりした後に饅頭を……」
「だっておじいちゃんのご飯がおいしいんだもん!」
「親父……これ以上真葵を甘やかさないでくれ。こいつはこれでもモデルなんだ」
「これでもって何!?」
「こんなバカで飲み食いする事しか考えてなくても……っていう意味だ」
「またバカって言った! おじいちゃん! また叔父さんがバカって言ったよぉ!」
「お前……子供の喧嘩じゃないんだから親父に言いつけるなよ……もう二十二歳だろ」
「いいの! これからは叔父さんにいじわるされたら、おじいちゃんに助けてもらうんだもん!」
「……やれやれ。親父も大変だな」
「叔父さんがいじわるしなければいいんでしょ!」
「ははは。これからは毎日賑やかになりそうだ」
おじいちゃんが嬉しそうに笑っている?
「真葵の相手は大変なんだ……やれやれ……」
叔父さんは呆れ顔でビールを飲んでいる……
これで何本目なの?
「叔父さんの相手の方が大変なの! もうビールはおしまい! ほら、部屋の片付けだよ! 荷物を運び込んだら片付けないと!」
「俺の荷ほどきは終わってる。あとは真葵の荷物とキッチン用品くらいだ」
「……本当に私達って荷物が少ないよね」
「そうだな。おかげで引っ越しが楽だった」
「……叔父さんは、ほとんど何もしていなかったけどね」
「……お前……町内をもう一周してくるか?」
「どうしてそうなるの!?」
「……うるさいから」
「はあ!? 叔父さんがちゃんとしないからでしょ!?」
もう……
こんなんじゃいつまで経っても『お父さん』なんて呼べないよ。