汚部屋とキノコと黒い奴(4)
「まったく……」
叔父さんが、いかがわしい雑誌を丸めて私の足ごと奴を叩いた!?
「いやあああああっ! 潰し……いやあああっ!」
「はあ? 奴は逃げただろ。ほら。開きっぱなしの玄関から出ていった」
「そんなの見てないよっ!」
「これくらいで騒ぐな。まったく……」
「だいたい叔父さんのせいでしょ!? 部屋の掃除をしないから!」
「……一匹いたら何匹いるんだっけ?」
「……!? 確か……百匹……」
「巨大ファミリーだな……」
「いやあああああっ! 無理無理っ!」
「……じゃあ……引っ越すか?」
「……え?」
「親父も年だからな。それに保護対象者が二つの家に分かれて暮らすより一緒にいた方が守りやすいだろ。あの家なら部屋も余ってるから見守る者も暮らせるし」
「……え? じゃあ……おじいちゃんと暮らせるの!?」
「ああ。そうなるな……」
「うわあぁ! やったあ! 毎日高級なお茶が飲めるよっ!」
「お前の頭の中は飲み食いする事しかないのか?」
「それだけじゃないよっ! 奴らの巣窟から抜け出せるんだからっ!」
このままじゃ怖くて眠れないから助かった!
「……親父との同居の前に引っ越しがあるだろ」
「……え? 引っ越し……家具を……全部移動する……」
「確実に黒い奴らが大量に隠れてるな……」
「いやあああああっ! 叔父さんがやって!」
「……ダイエットにちょうどいいな。汗をかいて動き回れ」
「いやあああああっ! 叔父さんがやって!」
「……お前……よく見たら二重顎……」
「よく見ないでっ!」
「ちょうどいいダイエットだな……頑張れ」
「いやあああああっ!」
「どうしたんだ? さっきから楽しそうだな」
真理ちゃん!?
手にキノコを持っている!?
「全然楽しくなぁぁあいっ!」
引っ越ししたら奴らに遭遇……
絶対いやっ!
あれ?
そういえば……
いつも通り『叔父さん』呼びに戻っちゃった……
これで……
いいのかな……?
「真理ちゃんっ! キノコをゴミ袋に捨てて手を洗って!」
「ん? おじいさんとおばあさんのお土産に……」
「ダメダメっ! 毒があったら大変だからっ!」
「……? でもお前さっき探偵に……」
「ちょっと考えただけだからっ! 本当に食べさせたりはしないからっ!」
「……真葵。やっぱり俺に食わせるつもりだったんだな……」
叔父さんが呆れながら私を疑いの瞳で見ている……
「一瞬考えただけだからっ!」
「やれやれ……これからはキノコ料理には気をつけないとな」
「もう! 本当に食べさせるはずないでしょ!?」
「ははは。ぴよたんは楽しそうだね」
この声は……
「おじさん!」
久しぶりに会えた!
嬉しいな。
今日もおじさんは優しそうに笑っている。
「一か月ぶりだね。元気そうで安心したよ」
「うん! おじさんも元気そうだね」
優しい笑顔に癒されるよ……