汚部屋とキノコと黒い奴(3)
「……はぁ。親父が駅前の焼肉屋で真葵が帰ってきたお祝いをするって張り切ってたが……断るか」
叔父さんが呆れながら話しているけど……
「ええ!? 駅前の焼肉屋!? あの高級焼肉!? 一回行ってみたかったんだよ! 毎日前を通るたびにいい匂いを嗅ぐ事しかできなかったの! ダメ! 絶対ダメっ! 断らないでっ!」
「でも……痩せるんだろ?」
「明日から頑張るから!」
「今日頑張らない奴が明日から頑張れるはずないだろ」
「それを言うなら叔父さんだってお風呂にキノコを生やして部屋も汚くしたままだったでしょ!?」
「部屋が汚くても生きていける」
「はあ!? 黒い奴が出るかもしれないでしょ!?」
「ははは。二人はそっくりだね。さすが親子だ」
「……!」
狩野さんが面白そうに笑っている!?
「ほら、真葵ちゃん。小田ちゃんに言いたい事があったんじゃない?」
「……このタイミングで?」
「真葵ちゃんはズルズル先延ばしにしそうだからね」
確かに……
狩野さんの言う通りだ……
「……? 何か話があるのか?」
叔父さんが尋ねてきたけど……
ちゃんと言わないといけないよね。
「……ただいま」
「……? ああ。おかえり」
「その……」
「……? まだ何かあるのか?」
「……ただいま……お父……さん……」
「……! 真葵……」
ダメだ……
涙が溢れてきちゃった……
叔父さんが少し驚いたような顔をしている。
ずっとずっと私を『叔父さん』として育ててくれたけど……
本当は『お父さん』だったんだ。
でも……
『お父さん』って呼ばれて迷惑だったかな?
「なぁ……この黒く光っている奴はなんだ?」
真理ちゃんが私の足元を指差しながら話している?
何?
……?
黒く光っている?
まさか……
「うわあぁっ! 奴が出たよっ! 叔父さん! 殺虫剤っ!」
「殺虫剤? どこにやったか……」
まったく……
部屋を汚くするから奴が出るんだよ!
こんな時まで冷静なんだからっ!
「うわあぁっ! 早くっ! サカサカ動いてるっ!」
「別にいいだろ。カブトムシとどこが違うんだ?」
「はあ!? ふざけないでっ!」
「あ……真葵……足……」
「え……うわあぁっ! 足にたかった! いやあああああっ!」
怖くて動けないっ!
「どうしたんだ!? 今悲鳴が……」
お兄ちゃんが慌てて玄関を開けて入ってきた。
ずっと外にいたの?
忍びだから虫くらい簡単に捕まえてくれるよね?
「お兄ちゃんっ! 助けて!」
「どうしたんだ!? まさか非公認の奴らが……」
「足に奴が!」
「足!? 足をやられたのか!? って……うわあぁ! ゴ……」
「助けてっ!」
「はあ!? 無理無理! 俺は虫がダメなんだ!」
「ええ!? 虫がダメ!?」
誰でもいいから助けてっ!