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鈴木さんの中にいる人(8)

「なんて事を……」


 おばあさんが立っていられずにその場に座り込んだ。


「あの団体はクズの集まりだった……」


 鈴木さんが険しい表情でおばあさんに話している。


「赦せない……私達の孫を……」


「あいつらは消されたらしい……」


「それでも赦せない! 絶対に……赦せない……どうして……どうして私達の家族ばかりこんな目に……」


「いつか……返すから……」


「……え?」


「いつか必ずこの身体を返すから……すまない……」


「……あぁ……ごめんなさい……ごめんなさい……あなたは悪くないのに……八つ当たりしたりして……」


「……俺が……悪くない……?」


「あなたも被害者なのね……きっと悪い奴らに酷い目に遭わされていたのね……」


「……俺が……被害者?」


「一か月後……あなたは絶対に生きているわ」


「……え?」


「それから先……行く場所はあるの?」


「……ない。俺には……一か月より前の記憶はないから」

 

「じゃあ一緒に暮らしましょう」


「一緒に?」


「部屋はたくさんあるの」


「……でも……俺は……そんなのは許されない……それに……生きていないかも……大切な孫の身体を……俺なんかが……」


「あなたで良かった……」


「……え?」


「あなたは優しい子……」


「俺が……優しい? 奴らは……俺を……そんな風には言わなかった。『大量に殺せ、お前は化け物だ』って……」


「悪い奴らに酷い事を言われて苦しかったわね。もう大丈夫よ。これからはおばあちゃんが守るから」


「俺を……守る?」


「おばあちゃんは弱いけど……心を支える事はできるわ」


「心を……?」


「一緒に暮らしましょう? 一か月後……狩野さんの元から帰ってきたら」


「俺は……孫じゃないのに? 一か月後に生きていたとしても……本当の孫は消えているかもしれないのに? 俺のままかもしれないのに?」

 

「……被害者同士……支え合って生きていきましょう?」


「……俺には……そんなのは許されない……」


「どうして?」


「俺は……孫の身体に……入り込んだ化け物だ」


「あなたは優しい子よ……」


 おばあさんが鈴木さんの身体を優しく抱きしめた。


「……!」


 鈴木さんの表情が驚きで固まっている。


「待っているわね。一か月後に……必ず来てね?」


「いいのか? 俺なんかが……」


「待っているわ……だから絶対に生きて戻ってきてね? 『おばあちゃん』って呼んでくれるのを楽しみにしているわ」


「……」


 鈴木さんの瞳から涙が溢れて止まらない。

 これは本当の鈴木さんじゃなくて、鈴木さんの中にいる人の涙なのかな……

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