鈴木さんの中にいる人(6)
「本当に?」
「またそれか……口ぐせなのか?」
私の言葉に鈴木さんの中にいる人が呆れているみたいだ。
「誰にも未来の事なんて分からないのに決めつけて諦めるの?」
「……それは……でも……」
「あなたはあなたでしょ? 誰かにあなたの未来を決めさせないで」
「……でも」
「さあ! あなたの未来を始めよう」
「……え?」
「私は立ち上がる。あなたは誰からも銃口を向けられない。これが今から始まるあなたの未来への第一歩だよ!」
「銃口を向けられたら?」
「狩野さんの言う事を聞かなかったら処罰されるんじゃないかな?」
「……え?」
「ね? 狩野さん。今ここにいる暗殺部隊より狩野さんの方が偉いんだよね?」
「……そうだね。まったく……真葵ちゃんには敵わないよ。その通り。誰も鈴木真理に手出しできない」
狩野さんはずっと私に呆れているみたいだ。
「本当に……?」
え?
鈴木さんの中にいる人が私みたいな事を言っている?
「あはは! 私の口ぐせと同じだよ?」
「……え? あ、確かに……」
鈴木さんが驚いたような顔をしている。
おじさんは覚醒に失敗すると感情がなくなるって言っていたけど、間違いだったんだね。
ていうより鈴木さんは覚醒していないんじゃないかな?
「さあ、私は立つよ。あなたも立って? いくよ」
ゆっくり立ち上がると、鈴木さんの身体に手を差し伸べる。
恐る恐る私の手を握った鈴木さんの手は驚くほど冷たい。
「……誰も……銃口を向けない……」
「今までいた団体がこの世界の全てじゃないんだよ? それは狭い狭い世界だったの」
「狭い世界……」
「大丈夫。もう大丈夫だよ。私は絶対にあなたを裏切らない……それにあなたを愛してくれる人が必ずいるから」
「俺なんかを?」
「『なんか』じゃないよ? 自分を卑下するのはもうおしまい。ね?」
「……お前……変な奴だな」
「よく言われるよ。自覚はないけどね」
「……ごめん」
「……何が? 変な奴って言った事?」
「……いや……本当はこの身体の女の感情は俺の中にいる」
「鈴木さんが?」
「……でも……俺は消えたくない。身体を返したくないんだ。この身体の女が苦しむから……」
今の言い方だと鈴木さんを守る為にこの人格が存在しているような……
「……鈴木さんは、今どうしているの?」
「……分からない。どうしたら身体を返せるのかも分からない……俺の最初の記憶は……頭がフラフラして……目を開けると団体の奴らが『成功した』って言っていて……俺は駿河に最も近い存在だって……でもその時にはまだこの身体の女は俺の意識に割り込んできて……それを団体の奴らが押さえ込めって言って……」
「そうだったんだね」
全部全部その団体の奴らが悪かったんだ。