鈴木さんの中にいる人(5)
「そうなんだね。でも怖いものは怖いよね。もう二度と銃口を向けられないようにしようね?」
身体の痛みと心の痛みは違うはずだから……
「……どこまでお人好しなんだよ」
鈴木さんの中にいる人は本当は悪い人じゃなさそうだよね。
「あなたが本当に悪い人ならここまでしなかったよ」
「……え?」
「あなたの中の鈴木さんが『助けて』って言ったの。だから助けたいと思った。でも……あなたの中に鈴木さんがいないとしても……あなたも悪い奴に作り出された被害者だから」
「……被害者?」
「じゃあ、私は立つよ?」
「……お前がどいたら……俺は撃たれるんじゃないか?」
「……案外気が弱いんだね。よくこんな騒ぎを起こせたよ」
「……あの時はどうかしていたんだ」
「どうかしていた?」
「もう終わりだと思った。団体の奴らが消されて……一人になったから……だから団体の数人を操ってお前を拐おうと……」
「もう大丈夫。あなたは一人じゃないよ。私がいる」
「……お前は……本当に……お人好し過ぎる」
「……この広過ぎる世界に……ひとりぼっちになった悲しみを私は知っているから」
「……え?」
「でもすぐに叔父さんが迎えに来てくれた」
「探偵が……?」
「育ててくれたパパが連れ去られた時の話だよ。独房でたくさん話そう?」
「……何を? 俺はこの身体の女の過去を何も知らない。話す事なんてない」
「あなたの話を聞きたいな……」
「俺の話?」
「あなたの心を聞きたいの。あなたが何が怖くて何が嫌いで……何が好きで何をしたいか……」
「……そんなの聞いてどうするんだ」
「仲良くなれる……から?」
「俺なんかと仲良くしてどうするんだ? 聞き出したい情報でもあるのか?」
「友達を作るのに理由なんて必要なのかな?」
「友達……?」
「一緒に遊んだり笑ったり……時々は喧嘩をして……すぐに仲直りする。それが友達だよ? なんてことない話をしているだけで楽しくてずっとこの時間が続けばいいと思う……そんな幸せをあなたにも知って欲しい」
「お前は俺の中の女に戻ってきて欲しいのか? だから俺に優しくするんだろ?」
「うーん……正直私は鈴木さんをよく知らないの」
「そうなのか……じゃあ……もし……女が戻る為に俺が消えたら……どうする?」
「『どうする』? 『どう思う』じゃなくて?」
「俺にはそういう『思う』とかいう気持ちが分からない」
「じゃあこれから知ればいいんだよ」
「これから? でも俺は一か月後には……死んでいるから」
一か月後に死んでいる?
本当にそうなのかな?