鈴木さんの中にいる人(1)
「あなたが暴れなければいいんだよ」
そう。
鈴木さんの中にいる人が暴れなければいいの。
「……は?」
「だから、あなたが暴れなければいいの」
「……お前……本当にバカだろ」
「……よく言われるけど自覚はないよ」
「……俺はお前を傷つけようとしているんだぞ?」
「うーん……できないと思うよ?」
「……どうして?」
「うーん……分からないよ」
「……は?」
「私には……あなたが悪い人には思えない」
「……どうしてそう思う?」
「車の後部座席に偉い人の孫が乗っていないから……かな?」
「……知っていたのか?」
「私のいた場所から後部座席に誰もいないのが見えていたからね」
「じゃあ……どうしてそれを黙っていたんだ?」
「それを言ったら鈴木さんが車ごと爆破されていたかもしれないからだよ」
「……どこまでも甘いな」
「鈴木さんの事はよく知らないけど……鈴木さんのおばあさんとおじいさんの事は知っているからね。二人が悲しむ姿を見たくないの」
「それだけの理由で?」
「一番大切な事だよ?」
「一番……大切な事?」
「知り合いが悲しむ姿なんて見たくないでしょ?」
「……たったそれだけの理由で?」
「もう……だから『たったそれだけ』とかは違うの。『たった』じゃないの」
「……分からない。俺には……分からない」
「じゃあ私が教えてあげるよ」
「……え?」
「これは言葉で聞いただけじゃ分からないんだよ。心が感じないとダメなの」
「心?」
「狩野さん。鈴木さんを私が預かるのはダメ?」
「……真葵ちゃん。危険だよ」
「鈴木さんの中にいる人は……良い事と悪い事の区別がつかないだけだと思うの。だったら誰かが教えてあげればいいんだよ」
「真葵ちゃん……俺は反対だよ」
「どうして?」
「鈴木真理が暴走すれば真葵ちゃんは死ぬ事になる。真葵ちゃんの周囲の人も危険なんだ」
「……じゃあ狩野さんの独房に鈴木さんと二人で入ればいい?」
「真葵ちゃん……本気で言っているの?」
「うん。それで一か月鈴木さんが生きていて暴走しなければ、おばあさんとおじいさんと暮らしてもいいかな? もちろん、おばあさんとおじいさんが望めばだけど」
「……え?」
「これ以上おばあさんとおじいさんから奪わないで欲しいの」
「……真葵ちゃん」
「真葵……本当に鈴木と独房に入るつもりか?」
叔父さんが怖い顔をしながら尋ねてきた……
「真葵ちゃん……やめて欲しいよ……危険だよ」
おじいちゃんが心配そうに話しているけど……
「鈴木さんのおばあさんとおじいさんが、鈴木さんを心配している気持ち……おじいちゃんなら分かるはずだよ?」
「真葵ちゃん……でも……」
「もちろんおじいちゃんが私を心配してくれているのも分かるよ。でもね、今鈴木さんを諦めたら絶対後悔するから……」
「それで真葵ちゃんに何かあったら……」
「不思議なの」
「……え?」
「鈴木さんの事……全然怖くないの」
不思議だね。
全然怖くないんだよ……