襲撃なんて物語の中だけじゃないの?(6)
「……さっきから何を」
鈴木さんの中にいる人が困惑しているのが分かる。
「鈴木さん……おばあさんとおじいさんが心配しているよ」
「もうその女は俺の中にはいない!」
「本当にそうなの?」
「だからお前はさっきから……」
「本当に鈴木さんはいないの?」
「いるはずないだろ! 完全に俺の支配下に……」
「じゃあ……どうしてあなたは泣いているの?」
無表情なのに瞳から涙が溢れ出している……
これは鈴木さんの感情なんじゃないかな?
「……? 俺が……泣いている?」
鈴木さんの手が頬を触って確認している……
今だ!
開いている運転席の窓から鈴木さんの身体を引っ張り出す。
話している途中でシートベルトを外してくれて助かったよ。
鈴木さんは小柄だから思ったより簡単に引っ張り出せた。
いや、私が大きいのか。
百七十五センチの力持ちでよかった……
しっかり馬乗りにならせてもらったよ!
「お前!? 何を!? 女が普通こんな事を……」
「普通って何?」
「は!?」
「私に『普通』なんて通用しないんだよ!」
「は!? 何を……」
「鈴木さんを返して!」
「……お前……胸ぐらを掴んで揺らすな! 頭がフラフラ……」
「やっぱり……あなたは頭にいるんだね!?」
「は? 何を……」
「あなたが鈴木さんの身体から出ていくまでずっと揺らしてやるんだから!」
「は!? お前……本当に知能が高いのか!? ただのバカだろ!?」
「そうだよ! 私はバカなんだよ! さっさと出ていけ!」
「やめろ……フラフラ……する……」
「真葵ちゃん……もういいよ……」
鈴木さんに馬乗りになる私の隣に、いつの間にか狩野さんが立っている。
黒いマントに黒い軍服みたいな物を着ている。
これが本当の狩野さんの姿……
狩野さんが『繋ぐ者』だっていう叔父さんの言葉は嘘じゃなかったんだ。
「狩野さん……鈴木さんを助けて」
「はあ!? お前が俺を殺そうとしているんだろ!?」
「ふざけないで! 今すぐ鈴木さんの身体から出ていって!」
「ふざけているのはお前だろ!?」
「ふざけているのはあなただよ! もっと激しく頭を揺らそうか!?」
「やめろ! このバカ……いつまで馬乗りになっているんだ!」
「真葵ちゃん……覚醒に失敗した者をこんな風に押さえつける人を初めて見たよ」
狩野さんが呆れながら話しているけど……
この感じ……
やっぱり……
ダメダメ!
今はしっかりしないと!
「狩野さん……鈴木さんを助けられる?」
「……難しいかな」
「偉い人の孫を拐ったから?」
「……それは関係ないよ」
「関係ない?」
「あいつらはただの愚か者だ」
「……え? 『あいつら』って偉い人の事?」
「犯罪を隠蔽する時に役立つくらいだよ。あいつらの為に駿河様を蘇らせたいわけじゃないんだ」
「そうなの?」
今、駿河『様』って言ったよね?
「我らはあいつらを利用しているだけだ。あの愚か者達は駿河様を蘇らせていいように使おうと考えているようだが、そうはならない」
「……え?」
「駿河様は新たなる『日本』をつくるんだ」
新たなる日本?