鈴木さんは冷静過ぎて怖いくらいだ
「(『彼ら』は母が右手が不自由だと知っていたのでわざと右手を使い絞殺しました)」
鈴木さんは父親が絞殺されたのに冷静なんだね。
「(お母さんが疑われないように?)」
「(当時暮らしていた家は壁が薄くて、騒ぎを聞いた近所の人が駆けつけてしまって……父の隣に母が倒れている姿を見られてしまったんです。私は『彼ら』の一人と家から出て姿を見られずに済んだのですが……)」
「(『奴ら』は鈴木さんを守ったの?)」
「(……『彼ら』は切り札である私を守ったんです。でも同じ『彼ら』であっても私を見張る『彼ら』と母を見張る『彼ら』は別行動をしているようです)」
「(それって?)」
「(詳しくは分かりませんが……『彼ら』同士で殺し合う事もあるようです)」
「(まさか……私と叔父さんを見張る『奴ら』は違う所属で、どっちを生かすかで殺し合いを……?)」
「(私を見張る『彼ら』は少なくとも二人。もしかしたらもっと多いかもしれません。母を見張る『彼ら』は三人見た事がありました)」
「(同じ家族を見張っていても『奴ら』同士は敵っていう事?)」
「(敵まではいかないかもしれませんが……『彼ら』が誰かの指示で私達を見張っているのは確かです)あ……この木陰にしますか?」
鈴木さんが普通の声で話し始めた。
ずっとこんな風に暮らしてきたのかな?
『奴ら』を刺激しないように……
「うん……」
『奴ら』が近くにいるのに色々訊いてもいいのかな?
「小田さん……私の話を聞いてください」
鈴木さんがゆっくり話し始めた。
ここから先の話は『奴ら』に聞かれても大丈夫っていう事?
「私の兄はホワイトハッカーでした。その頃私達家族は小さなアパートで暮らしていて……兄は進学する余裕がなくて高卒だったんですが実力が認められてすぐに年収が父を超えたんです。まぁ、父が仕事をすぐに辞めていた事もありますが……」
「じゃあさっきの豪邸はお兄さんがホワイトハッカーをして建てたの? 門しか見えなかったけどすごかったよ?」
「あの家は兄が、私と母の為に建てたんです」
「行方不明になる前に?」
「いえ。兄が行方不明になったのは二年ほど前で……この家の存在は兄からの手紙で知りました」
「え? 手紙?」
「『彼ら』が届けてくれたんです。母が離婚を決意してアパートを探し始めたのを知った『彼ら』が、兄に報告したのかもしれません」
「手紙って……拐われたお兄さんと手紙のやり取りができるの?」
「その時だけでしたが……やり取りというよりは手紙が母に届けられただけです。兄は、私と母の行動を全て把握していたようです」
「『奴ら』が報告しているんだね……」
「たぶん……そうかと。兄は、私と母を父から離れさせる為に拐われてすぐ家を建てる為の土地探しを『彼ら』に頼んでいたようです。父が絞殺される数日前に『彼ら』が私と母を先程の家に連れてきたんです。兄からの手紙には『これからはこの家に住んで欲しい。毎月仕送りするから心配いらない。自分は元気だから大丈夫だ。妹には今からでも大学に行き誰よりも幸せになって欲しい』と書かれてありました。キャッシュカードが同封されていて今月もかなりの額が……」
「お兄さんは比較的自由に暮らせているのかな? 私の両親からは一度も連絡がないの」
「……もしかしたら……囚われている場所が違うのかもしれません」
「え? 皆一か所に集められているんじゃないの?」
「詳しくは分かりませんが……囚われている場所でやり方が違うのかも」
「……私の両親と鈴木さんのお兄さんは別の場所に?」
「前に一度……『今はこちら側の人間』が、囚われた人を救出したそうです。一人だけですが……」
「救出したの?」
でも今はって?
前は違ったの?