襲撃なんて物語の中だけじゃないの?(3)
「小田さんも早くこちら側に来てください。小田さんは今まで会ったピックアップされた人達とは明らかに違います」
こちら側?
鈴木さんは、車の中に来いって言っているわけじゃなさそうだけど……
「何を言っているの?」
「ふふ。私を試しているんでしょう? 覚醒に失敗したかどうかを『おじさん』が尋ねろって言ったから」
「……どうして……それを……」
「ふふ……あはははは! どうして? そんなの簡単よ。私が駿河になったから! あはは! 私の覚醒は成功したの!」
「……何を……言っているの?」
「私は駿河に一番近い存在……あはは! 私には聞こえるの。心の声が!」
「……心の……声?」
「駿河の力……精神に入り込む力を私は手に入れたのよ! あはははは!」
「……鈴木さんを返して」
「ふふ。私が鈴木でしょ? 返すも何もないわよ」
「嘘! まだ鈴木さんはあなたの中にいる!」
「……はぁ。どこまで知ったのかは面倒だから聞かないけど……私よりは知らないはずよ。私は複数の団体やピックアップされた人達に接触して多くの情報を得てきたの」
「そんなの知らない……鈴木さんを返して。鈴木さんのおじいさんとおばあさんがどれほど心配しているか……あなたには分からないの?」
「……だから?」
「……あなたならそう言うと思ったよ」
「ふふ。じゃあ訊かなければいいでしょ?」
「私はあなたの中にいる鈴木さんに話したの」
「もうあの子はいないわ」
「……本当に?」
「これは私の身体になったの」
「……本当に?」
「……バカなの? 少しは賢いかと思ったのに……」
「どうして私に近づいたの?」
「『葵』の娘だからよ?」
「ママ……?」
「アレは私以外で最も駿河に近い」
「ママをアレなんて呼ばないで」
「でもアレは厳重に守られていて近づけない。だからお前に近づいたの」
「……私に近づいて何をするつもりなの?」
「ふふ。色々やってみたい事はあるわ。ひとつには絞れない」
「人体実験……?」
「あはは! 死んだ方が楽なくらいの苦しみを与え……」
「やめるんだ」
……?
男性の低い声?
見た事がない六十代前半くらいの男性だ。
誰?
辛そうに鈴木さんに話しかけている。
「鈴木真理……やめるんだ」
「……」
鈴木さんが無言で男性の瞳を見つめている。
もしかして、こうやって心を聞いているの?
「これ以上暴走したら排除しなければならない」
「ふふ。へぇ……そうなの……ずっと騙されていた施設長……あはは! 哀れね」
ずっと騙されていた施設長?
じゃあ、鈴木さんのお兄さんがいる施設長なの?