襲撃なんて物語の中だけじゃないの?(2)
「小田さん! 早く!」
鈴木さんが早く車に乗れって急かしてくるけど……
「鈴木さん……何かが腐ったみたいな匂いが……」
「……え? 私が……ですか? 硫黄の匂いでしょうか。家に温泉があるんです」
「家に温泉!?」
確かにあの立派な門の家なら温泉があってもおかしくはないかも……
でもおじさんは覚醒に失敗すると脳が腐るみたいに言っていたよね?
どっちの匂いなの?
「小田さん! 早く乗ってください!」
「……乗れないよ」
「……え?」
きちんと話さないと。
鈴木さんもおじさんも狩野さんも叔父さんも、皆違う事を話すから何が真実かは分からない。
でも……
襲撃の最中に都合よく鈴木さんが現れるなんておかし過ぎるよ。
私の考えが合っているのなら、鈴木さんの中には二つの人格がいるはず。
まだ鈴木さんがいてくれるなら、お母さんが救出された事を伝えないと。
「お母さんが、悪い奴らから助け出されたみたいだよ」
「小田さん?」
鈴木さんのこの感じ……
お母さんが助け出された事を知らなかったとかじゃなさそうだ。
確か、おじさんが言っていたよね。
覚醒に失敗すると以前の記憶がなくなるって……
まさか……
お母さんの存在を忘れているの?
「お母さんが……悪い奴らから助け出されたんだよ」
「『お母さん』……?」
……そんな。
何も分からないの?
手遅れ……
もう鈴木さんの人格はいなくなったの?
もう助けられないの?
「鈴木さん……」
「小田さん……早く車に乗ってください」
そうだ。
おじさんが言っていた。
動物を実験に使う話をしてみろって……
「鈴木さん……鈴木さん!」
「……はい?」
「人の病気を治す為に動物で実験をしているでしょう?」
「え? あぁ……そうですね。ですが今はそれよりも逃げなければ」
「その動物は……かわいそうだよね。人じゃないのに人の病気を治す為に酷い実験をされて……」
「……小田さん?」
「鈴木さんはどう思う? 私達は犠牲になった命で開発された薬のお陰で生きている……それなのに、こんな事を言うのは偽善……だよね……」
「なぜ今その話を? 小田さんも人体実験をされるかもしれないからですか?」
「鈴木さんは……別の生き物を人間の為に酷い目に遭わせる事をどう思う?」
「……そうですね……いらない人間を使う……という手もあるはずです」
「いらない……人間……?」
「はい。世の中には使い道のない、いらない人間が大勢いますから」
「鈴木……さん……」
本来の鈴木さんを知らないから、よくは分からないけど……
これが覚醒に失敗したっていう事……なのかな?
「人間だけが偉いんですか? それは違います。人間が優れているのではなく、私だけが優れているんです」
「……え?」
鈴木さん……
笑顔はかわいいけど目が笑っていない……
それに言っている事が自意識過剰過ぎてひいちゃうかも……