寝た振りっていつ起きればいいか分からないよね(1)
あれ?
身体の痛みが消えている。
熱中症が治ったのかな?
こんなに簡単に治るの?
どれくらい寝たんだろう。
誰かの話し声が聞こえる……
誰?
「ピヨ……知って……」
ピヨ?
おじさんかな?
小声だからよく聞こえない……
「なんでそんな事になってるんだよ!?」
……?
もう一人の声は聞いた事がない。
あ……
もしかして私を見守っている人?
確か……
ヒョロヒョロでツクツクで口が悪い……だっけ?
「大きい声を出さないで。ピヨたんが起きちゃうよ。とにかくこれからは今まで以上に気をつけないと。家と探偵事務所に出入りする時は確認して、それから……」
「そんなの言われなくても分かってる。それより繋ぐ者が団体をひとつ潰したらしい」
「……そう。俺が施設長に連絡する前にすでに事は済んでいたらしいからね。電話で聞いて驚いたよ。それで、保護対象者は見つかったのかな?」
「母親の方は保護されて病院に送られたらしいな。かなり衰弱してたみたいだが生きてはいたようだ。娘の方は行方不明らしい」
「はぁ……まったく……これだから認可を受けてない団体は困るんだ。女の子は行方不明か。嫌な予感がする……絶対にピヨたんを守り抜かないと」
「ピヨたんって……そいつはもう二十二歳だろ?」
「ピヨたんはずっとピヨたんなんだ! あれはまだ二歳だった頃……ヒヨコの真似をして『ピヨピヨ』って言うのが好きだったんだろうね。ずっと『ピヨピヨピヨピヨ』言っていて……俺はその日のピヨたんのかわいさに……」
「その話は暗記するほど聞いたから黙れ」
「……『ピヨピヨピヨピヨ』言っ」
「その話は暗記するほど聞いたから黙れ」
「……ピヨ……」
「黙れ」
「うぅ……昔はあんなにかわいかったのに反抗期かな? 里にいた頃は『お兄ちゃんお兄ちゃん』ってどこに行くにも付いてきたがったのに……」
「……あの頃のお前は今とは違った。憧れの忍びだったのに今じゃすっかり丸いおっさんだ」
「確かに太ったけど……まだまだ動けるよ!」
「少し痩せたらどうだ?」
「うぅ……」
「商店街で買い食いしてるから太るんだ。太った忍びなんて聞いた事がない。そんなので戦えるのか?」
「痩せたらダメなんだ」
「……は? なんだそれ?」
「いつか分かるよ。それより、俺は調べたい事があるから一旦抜けるよ」
「施設に帰らないのか?」
「気になる事があってね」
「施設長に頼んで調べてもらえばいいだろ?」
「いや、すぐに調べたいんだ。それにピヨたんを見守る者を増員する必要があるから今は俺が動いた方が早いんだ」
「……気をつけろよ。巨大化したから天井裏にも入り込めないだろ?」
「あはは。そういうのじゃないよ」
確かに。
おじさんは天井から落ちちゃいそうだよね。