それぞれの拐われた家族(6)
「じゃあ、もう一人の男性は?」
ずっと壁にかかっている時計を見ているけど……
早く帰りたいのかな?
「ああ。彼は……誰だか分からないの」
おばさんが困り顔で教えてくれたけど……
「……え? 誰だか分からない?」
普通に探偵事務所に入ってきているよ?
「ええ。何も話さないし特定の誰かを見張るわけでもないの。ただ気づくと近くにいるのよ」
「……それって……大丈夫なの?」
「害はなさそうよ。夕方の音楽が流れるとどこかに帰っていくの」
じゃあ夏は十八時に帰るっていう事?
「……『奴ら』なのかな?」
「さぁ……でも……悪い人ではなさそうね」
確かに……
周りに何の興味もなさそうで、ただ早く帰りたいだけに見えるけど……
「……私……何も知らずに、のほほんと暮らしていたなんて……申し訳ないよ」
「そんな風に思わないで。真葵ちゃんのママは私達の希望だったの」
「おばさん……」
「娘は……もう元通りには……戻れないわ……」
「……」
なんて言ったらいいのか分からないよ……
「でもね……もしかしたら……孫に会えたら……もしかしたら……なんて……」
「……酷いよ……酷い……『奴ら』は酷いよ……大切な家族を覚醒させて苦しめて連れ去って……残された皆も苦しみ続けて……こんなの……赦されたらダメ……」
涙が溢れて止まらない……
悔しくて苦しくて……
身体に入ってくる空気が熱い。
……?
舌が痺れる……?
頭が重い……
「真葵ちゃん? どうしたの? 大丈夫?」
「顔色が……小田さん! 真葵ちゃんが!」
おばさん達が私を心配して慌てている?
……息が苦しい。
「真葵? どうしたんだ?」
叔父さんの声が聞こえる……
でも目が開けられない……
「苦し……」
上手く話せない……
「まさか……覚醒!? ……真葵! しっかりしろ!」
覚醒?
これが覚醒……?
「覚醒って……ピヨたん! しっかりするんだ!」
この声は……
おじさん?
「頭が……痛……」
割れそうに痛いよ……
「……真葵。お前、ちゃんと水分補給したか?」
「……え?」
叔父さんの呆れた声が聞こえてきた?
「熱中症じゃないか?」
「熱中……あ……確かに……飲んでない……」
「はぁ……覚醒じゃなかったか……よかった……だが熱中症も命に関わるからな。アパートに帰るか」
「……動けなそうだよ」
「まったく……昼飯代を渡しただろ? 飲まず食わずだったのか?」
「……ううん。ちゃんと食べたよ。キムチ鍋うどんと炭酸飲料……」
「欲望のままに生きてるんだな……スポーツドリンクを飲むって頭はないのか?」
「だって……美味しそうだったんだもん」
欲望のまま?
焼き肉おにぎりとチーズを入れて食べた事は内緒にしよう……