それぞれの拐われた家族(4)
「父は突然声を荒げたの。普段は穏やかだったからそれは驚いてね……しかも自分の中の誰かと言い争いをしているように見えて……」
おばさんが昔を思い出しながら教えてくれているけど……
「自分の中の誰か?」
駿河なのかな?
「そして……いきなり母の首を絞めたの」
「そんな……」
「とめようとした私を殴って……でも少しすると見えない誰かと言い争いを始めたのよ」
「言い争い……?」
「『殺せ殺せ』『殺さない殺さない』ってね。そして自分の腕を折ったの。その後……折れた腕ではなく身体中を痛がって……」
「身体中を?」
「夏だったから短パンを履いていてね……露出してある脚の血管が……波打つように膨らんだり縮んだりして……目は真っ赤になっていたわ」
「血管……身体中痛がった……」
それって脳が先にやられて、その次に血管を通って身体中に駿河の何かが巡り始めたって事?
「……真葵ちゃん? ごめんなさい……聞きたくなかったわよね……」
「ううん。教えてくれてありがとう。おばさん……思い出したくないかもしれないけど……その時折れた腕の部分の血管はどうなっていたの?」
「腕の部分? えっと……どうだったかしら……混乱していて……鮮明に覚えているのが脚と目だったの……あ……そういえば……父を連れていった人が父の耳に栓をしていたわ」
「耳に?」
「今で言う……ほら、若い人が音楽を聴く時に使う……イヤホン? コードのないやつ。あんな感じの物だったわね」
「イヤホン……」
「何か音が聞こえてきたから普通の耳栓ではなかったはずよ……でも三十四年前にあったのかしら」
「確かにそうだね。ワイヤレスイヤホンが日本で普及したのはもう少し後だったはず……そう考えると『奴ら』の技術はかなり進んでいるのかも……」
「そうね……あ、そういえば……真葵ちゃんのママもずっとワイヤレスのイヤホンをしていたわね」
「ママも?」
覚醒者は皆しているの?
でも叔父さんはしていないよね。
隔世遺伝だから?
「でも普通に会話はできていたわ。音は流れていたのかしら。その辺りは分からないけど……」
「ママの血管はどうだったのかな?」
「真葵ちゃんのママ? 普通だったはずよ。小柄で華奢でそれはかわいくてね」
「……私とは全然似ていないね。私は背が高くて骨太だよ?」
「ふふ。それは小田さん似よ。小田さんはスラッとして素敵だもの。真葵ちゃんの歩き方とか、しぐさは小田さんにそっくりよ。でも顔はママ似ね」
「……私は二人に似ていたんだね」
「親子だもの。……心のモヤモヤが少しだけでも薄くなったかしら?」
「……ありがとう。おばさん……私の為に気を遣って話してくれたんだね」
おばさんも辛いはずなのに……