それぞれの拐われた家族(2)
「どうして私の父がこんな事に巻き込まれたのか……私には何も分からないの。父は幼い頃に妙な薬を使われて……三十四年前に覚醒したの」
おばさんが辛そうに話している。
駿河を作り出す薬……
でも、その事をおばさんは知らないみたいだ。
「治療からずいぶん経ってから覚醒したんだね……」
「他の拐われた人達は十代までに……遅くとも二十代までに覚醒しているらしいの。でも父は五十歳を超えていた……」
「……その日から……色々が変わったんだね」
「父は……いきなり叫び出して……」
「……え?」
さっき叔父さんが話していた『頭の中で殺せ殺せと聞こえた』っていう声かな?
「母と私は……父に殺されそうになったの。でも……父は……自分の腕を折ってそれをとめたの……」
「自分の腕を……」
「自分の中の誰かと話しているようだったわ」
「自分の中の誰か?」
駿河……?
本当に頭の中に声が聞こえてくるの?
「そこに団体を名乗る男が現れて……父を連れていったの」
「そんな……」
「きちんと腕の治療は受けられたのか……食事はさせてもらえているのか……父は……最後まで私と母を愛してくれた……分かっているの……父はもう……生きてはいない……」
「おばさん……」
「母は心労で倒れて……」
じゃあ、おばさんのお母さんはもう……
おばさんは一人でこの苦しみと戦っていたんだね……
「辛かったね……」
「あ……母は生きているわ」
「え? そうなの? ごめんなさい。勘違いしちゃって……」
「私の話し方が悪かったの。真葵ちゃんは知らないかしら。市の九月の広報に毎年出ている最高齢のおばあさんを」
「九月の広報? 敬老の日がある月? 最高齢のおばあさん……あ、百歳近いのに町内の子供の登下校の見守り活動をしているって書いてあったような……」
「それが私の母よ。何があろうと父を救い出すまでは死ねないって頑張っているの」
「……そうなんだね」
「不思議なのよ」
「……? 不思議?」
「もうすぐ六十になるわたしでさえ節々が痛くなるのに、母は容姿こそおばあさんだけど健康そのものでね」
「毎日子供達と接しているからかな? すごいね」
「『お母さんより私の方が先にお迎えが来るかしら』って毎日笑って話しているわ」
「そうなんだね」
「……だから急ぎたいの。もし……父が亡くなっていたとしても……その事実だけは母に知らせたい……」
「……うん」
「私は……『奴ら』を壊滅させたいの」
「壊滅?」
「二度と訳の分からない実験をさせない為に……そして父を取り戻したいの」
「……うん。私も……ママを……取り戻……」
ママを取り戻しても……
私と叔父さんを守る為にまた施設に戻っちゃうんじゃ……
それに、私はママの事を何も覚えていないんだ……