それぞれの拐われた家族(1)
話を終えて、叔父さんと奥の部屋から出たけど……
おじさんはずっと電話をしていたみたい。
鈴木さんのおじいさんとおばあさんが、おじさんの隣で心配そうに話を聞いている。
叔父さんは全ての情報を共有しようって皆と話していたみたいだけど……
さっき奥の部屋で話した内容は皆に秘密にしないといけないんだよね?
相手からは情報を聞き出して自分の情報は隠す……
ずっとそうやって生きてきたのかな?
叔父さんが私の本当のお父さん……
でも……
『お父さん』って呼んでいいのかな?
叔父さんはその事を何も言わなかったけど……
「真葵ちゃん……無事に帰ってこられてよかった」
いつも行くスーパーのレジのおばさんが話しかけてきた。
「本当によかった。……突然色々知る事になって驚いたでしょう?」
いつも犬の散歩をしているおばさんも話しかけてきたけど……
この二人も家族を拐われた人達なんだよね?
叔父さんがおじさんの方に歩いて行った。
電話の内容を聞きたいのかな?
私は、おばさん達に余計な事を話さないように気をつけないと。
「おばさん達は、私が叔父さんの娘だって知っていたの?」
「……真葵ちゃんはママにそっくりだから。でも小田さんは姪だと言っていてね……そう言わなければいけない理由があったようだから……私達は切り札だけどお互いに深くは関わらないようにしていたから、それを受け入れたの」
スーパーのおばさんの言葉に、もう一人のおばさんが頷いている。
「こんなに近くにいるのに関わらないの?」
「もしも私達が仲良くして、拐われた家族に害が及んだらと思うと怖くてね……それに、拐われた家族の境遇が違うと分かれば仲違いしてしまいそうだし。私達はそうなりたくないのよ」
「……それは……そう……だね……」
「でも、もうそんな事を言っていられないの」
「……え? 何かあったの?」
「私の拐われた家族は父親なの」
「お父さん?」
じゃあスーパーのおばさんは覚醒者の娘?
「……父が覚醒したのは今から三十四年前。私が二十五歳の時だった」
「じゃあお父さんは九十歳近いの?」
「……そうね。父が生きているのか死んでいるのか……それすら分からないの。私を見張っている『奴ら』は私が切り札だから見張っているのか、覚醒者の娘でいつか覚醒するかもしれないから見張っているのか分からないのよ」
お父さんが亡くなっていたとしても、おばさんが覚醒するかもしれないから見張っているっていう事?
「おばさんは……お父さんを急いで救出したいんだね」
「……父は非公認の団体に拐われたのかもしれない……もう生きてはいないかも……でも……もし生きているのなら助けたいの。酷い人体実験をされているのなら……一日も早く……」
おばさんの切実な思いが伝わってくる……