鈴木さんの現状を考えると心が苦しくなる
「……え?」
畳屋のおじいちゃんが驚いたように呟いた。
「叔父さんが私の本当の父親なんだよね?」
「……! 真葵ちゃん……誰から聞いたの? まさか……駿河さんが?」
「違うよ……おじさんじゃないの。鈴木さんが教えてくれたの」
「一体どこまで知ってしまったんだ……」
おじいちゃんが青ざめている……
叔父さんは険しい表情をしたまま黙って私を見つめている。
「……私はパパに感謝しているよ。パパは仕事として私を育ててくれたのかもしれない。でも……パパが私に注いでくれた愛情は本物だった。父親じゃないかもなんて疑った事は一度もないよ。最後……私を守る為に連れ去られた事は……心から申し訳ないと……思う……」
「真葵ちゃん……」
「私は酷いよ……そんな素敵なパパがいるのに……叔父さんが父親だって知って……すんなり受け入れるなんて……最低だよ」
「……受け入れたのか」
叔父さんが呟いた……
表情は険しいままだ……
「パパは無事だったらしいの。それを聞いたから受け入れられたのかもしれないけど……」
「そうか……無事だったか……」
叔父さんは知らなかったみたいだね。
「全てを話す前に……これだけは分かっておいて欲しいの」
「……? なんだ?」
「私は鈴木さんを助けたい……私とおじさん……駿河さん? の考えが合っているのなら……鈴木さんの命が危ないの」
「ええ!? そんな……真理ちゃんに何かあったの!?」
鈴木さんのおばあさんが酷く取り乱している。
おじいさんも身体が小さく震えているのが分かる。
鈴木さんは『まりちゃん』っていう名前なんだね。
「薬を……今も盛られ続けているみたいなの」
「はあ!? どういう事だ!? あれは幼い子供に使う物だぞ!?」
叔父さんが怒鳴るように尋ねてきた……
「真実かは分からないけど……聞いて欲しいの。鈴木さんのおじいさんとおばあさん……かなり辛い内容だけど大丈夫?」
「……聞きたくない……でも……聞かないといけない……真理ちゃんが苦しんでいるのなら助けないと……」
おじいさんが震えながらなんとか声を絞り出している。
おばあさんは今にも倒れそうになっているけど大丈夫かな?
「おばあさんは……聞かない方がいいかもしれないね……」
「……聞くわ……聞かないと……私は平気だから……話して……」
「でも……顔色が……」
「大丈夫よ。私がこうしている間にも真理ちゃんが苦しんでいるなんて……お願いよ……話して……」
「……分かった。でも……辛くなったらいつでも言ってね?」
「……ええ」
こうして私は鈴木さんから聞いた内容を全て話した。
私が叔父さんの子供である事。
叔父さんは『奴ら』だったけど今はこちら側の人間になっている事。
ママが商業施設の最上階で産まれ育った事。
鈴木さんのお兄さんが、囚われている施設から鈴木さんとお母さんを援助している事。
鈴木さんの父親を絞殺したのは『奴ら』だった事。
鈴木さんの母親のSNSは誰かがなりすましてやっている事。
それから私とおじさんで導き出した事も話した。
もちろん想像であり確信はないけど……
話しておかないといけない事……
鈴木さんはもうすぐ……死ぬ……
薬のせいで暴走して『奴ら』に殺される可能性が高い。
鈴木さんのおばあさんとおじいさんはずっと苦しそうに話を聞いていた。
「おじいさん、おばあさん……私、思ったの。今、鈴木さんの心には二つの人格が存在しているんじゃないかって……」
「……二つの人格?」
おじいさんが苦しそうに呟いた……
弱々しい姿に見ている私も辛くなるよ……