もう後戻りはできないから……
「君の話から考えると……おじさんが思うに……あの女の子は非公認の団体に薬を使われ続けているんじゃないかな?」
「え? そんな……」
「まぁ詳しい事は分からないけどね……」
「でも鈴木さんとお母さんを守っている正規の人達もいるんだよね?」
「……うーん。女の子のお兄さんを保護している団体はしっかりしているから、こんな事にはならないはずなんだけど……おじさんの方で調べてみるよ」
「狩野さんはさっき公園で『おじさんはボディーガードだから離れたらダメだ』って言ってくれたの……本当に悪い人なのかな?」
「……そうか……でも……もしこれから先、狩野さんが現れても付いていったりもらった物を口にしたらダメだよ?」
「……狩野さんがくれたものに薬が入っているかもしれないから?」
「念には念を……だよ」
「……うん」
「一度に色々知って疲れただろう? でも……これだけは忘れないで。おじさんは嘘を言っているかもしれない。あの女の子は嘘を言っているかもしれない。探偵は嘘を言っているかもしれない。でも、皆が真実を言っているかもしれない」
「……え?」
「立場が違うと……居場所が違うと、見え方も違ってくるからね」
「……それは……そうだけど……」
「君は君の信じる道を進めばいい」
「私が信じる道?」
「おじさんはそれを応援するよ」
「……おじさん」
「本当に大きくなったね……おじさんは……君には何も知らずに暮らして欲しかった」
「……え?」
「あの女の子が現れて全てが変わってしまった」
「……叔父さんも同じ事を言っていたよ」
「探偵はまだあの女の子の恐ろしさに気づいていない。たぶんこの一か月であの子の症状はかなり悪化したんだろうね。この事も忘れずに探偵に話すんだよ?」
「……うん」
「じゃあ、ここからは他人の振りだよ。次の駅からは混むから話を誰かに聞かれちゃうかもしれないからね」
「……うん」
「安心して。これからもおじさんは君を守り続けるからね」
「おじさん……?」
「ん? 何かな?」
「真葵って呼んで?」
「……! あぁ……うーん……」
「ダメ?」
「いや……おじさん達は君の事を『保護対象者』って呼んでいるんだ」
「あ……そうだよね。ごめんね。おじさんは仕事で私を守っているんだよね……」
「あぁ……それはそうなんだけど……でも……違うんだよ……」
「え?」
「ここだけの話だよ? おじさんは相棒と君のママの前では……君の事を『ピヨピヨちゃん』とか『ピヨたん』とか呼んでいるんだ」
「……え?」
「はぁ……気持ち悪いよね……呆れちゃったかな? あまりにかわいくて……娘とか孫みたいに思えてね」
「……ぷっ。あはは!」
「どうして笑うの?」
「だって……おじさんがいい人過ぎるから」
「おじさんが……いい人?」
「私には『誰も信じるな。皆敵だと思え』みたいに言うのにおじさんは私を娘とか孫みたいに思ってくれているんでしょ?」
「……何も言い返せないよ。確かにそうだね。君が純粋過ぎて心配で……今も話し過ぎちゃったよ」
「……私らしく前に進んでみるよ」
「え?」
「おじさん……私を守ってくれているのがおじさんで嬉しい」
「……ピヨたん」
「え? ピヨたん?」
「あ……! いつもの癖で……」
「あはは! やっぱりおじさんはいい人だね」
「あぁ……いい年をして恥ずかしいよ……」
誰が真実を言っているのか、誰が味方で誰が敵なのか……
何も分からないけど、もう動き出した歯車は止められないんだね。
前に進むしか道はないんだ。