真葵と真理と愛しい気持ち(3)
「真理ちゃん……何かしたい事は?」
真理ちゃんの人格が消える前にひとつでも多く願いを叶えてあげたい……
「したい事?」
私に抱きしめられている真理ちゃんが尋ねてきた。
「一緒に楽しい事をいっぱいしようよ」
「楽しい事? ……うん! ……ありがとう……じゃあ……アイスを食べながら一晩中話したいな!」
「そうだね。独房にいた時を思い出すね……」
「……忘れないで欲しいな」
「……え?」
「人の記憶は薄れるものだ……いつか俺の事なんて誰も思い出さなくなる」
……また胸がキュッて冷たくなった。
「……真理ちゃん……忘れないよ」
「真葵……」
「真理ちゃんはどうして消えてもいいと思ったの?」
「……え?」
「本当はずっとこうやって暮らしていたいんじゃないのかなって……」
「そうだな。でも……納得したから……かな?」
「納得?」
「俺は鈴木真理を守る為に作られた人格。俺は駿河じゃなかったし、邪悪なもうひとつの人格ごと消えるなら……それで真葵が幸せに暮らせるなら……それでいい。いや、それがいいんだ」
「……私? 鈴木真理の為じゃなくて?」
「真葵は初めてできた俺の友だから……真葵だけは信じられたから」
「……真理ちゃん……私を守る為に消えるの?」
私は……
違う……
真理ちゃんが消える理由になるような立派な人間じゃないよ……
「重く受け止めないで欲しいんだ。ただ……なんとなく……上手くは言えないけど……真葵は特別なんだ」
「……特別?」
「他の覚醒者とは違うんだ」
「……え?」
「初めはその瞳に驚いた。これも上手く言えないけど……真葵は……たぶん他の覚醒者とは違う。俺は完全体の駿河なんて知らないけど……それとは違う何かなんだと思う」
「それとは違う何か?」
「もっと……何て言ったらいいか難しいけど……大切な人……?」
「……大切な人?」
「やっぱり上手く言えないな……たぶん……俺みたいな力がある奴は皆真葵にそれを感じているはずだ」
「……自分じゃ分からないよ」
「そうだな。自分の事は客観的に見られないからな。……あとどれくらい真葵と一緒にいられるか分からないけど……」
「……え?」
「この気持ちは……」
「『この気持ち』?」
「『愛しい』だな……」
「……? 愛しい?」
私には分からないよ……
「真葵……会えなくなるのは正直辛い。でも、鈴木真理の人格に戻っても……俺はずっと真葵を見守っているからな」
「真理ちゃん……」
「たぶん……皆いろんな人格を心に秘めているんだ。それを上手く隠しながら暮らしている」
「……そう……なのかな?」
「甘えん坊だったり泣き虫だったり……狂暴だったり……」
「真理ちゃん?」
「今、鈴木真理の中にある人格……」
「……え?」
「俺は……すごく甘えん坊なんだ……鈴木真理は泣き虫で……もうひとつの人格は……狂暴だ」
「……そうなんだね」
それぞれ違う性格……か。




